櫻籠り哀歌

夢に堕ちる

どくん、と心臓がやけに早く動く。


「っ、ま、さか」


俺はある場所へと向かって走り出した。


――――――


『代わり』
この言葉を聞いたことがある。
ずっと前に。
ずっと、昔に。


「名前、幸せなあの時に戻ろう?誰も僕らのことを知らない、お互いだけのあの日に」


ずっとずっと願っていたことだよ、と櫻が耳元で呟いた。


「……いつの間にか、こんなに大きくなっていたんだね」


櫻は私の身長を優に超していた。


「当たり前だよ、だって僕なんだから」


ぎゅうっと抱き付かれた。
その時だった。


バンッ


重い牢の扉が開いた。
そこには息を切らした涼太の姿があった。


「涼太…」


「、黄瀬くん」


「あれ?涼太早かったね」


涼太は足早にこっちへと向かってくる。


「櫻、名前を離してほしいっス」


「…どうして?」


「忘れてるかも知れないっスけど、名前は今、俺のものっスよ」


涼太の黄色い瞳が櫻を射抜く。
その瞳は今までに見たことないくらい真剣だった。


「―――ああ、そうだったね。まだ、君のものだったね」


案外あっさりと、認めた櫻。


「でもね、それは、もうすぐ終わるよ」


「…は?」


「最後に、涼太。君に夢を見させてあげるよ!」


ふわり、と眠くなる。
櫻以外、全員倒れて眠ってしまった。


「―――名前、」


名前の頬を撫でる。
辰也の血がまだ乾かないのか、名前の白い頬に赤がついた。
汚れた赤が。


「ねえ、僕ね。ずっとずっと君と二人で……いや、三人か。一緒に暮らしていたかったよ。こんな、こんな運命になるなんて思ってなかったよ、名前」


すべて、そこにいる黒子テツヤによって崩された運命だったね。