櫻籠り哀歌

現実は希望に染まっていない

涼太に死んで欲しくなかった。
だから動こうともしない涼太を庇うのなんて当たり前だった。


「涼太!!」


刀が涼太に刺さる寸前に私が間に入る。


「っ!姫様っ!!」


私の鼻、すれすれで刀が止まった。


「…あなたたちなんなんですか!!いきなり日本刀で斬りつけるとかっ、涼太が死んだらどうするんですかっ!!」


「!?」


私の言葉に赤の人を含め、5人が目を見開く。


「名前、なんで黄瀬くんなんかを庇っているんですか?」


空色の彼が信じられないという表情で私に聞いた。
…黄瀬?


「『黄瀬くん』って誰ですか?」


「っ!?あなたが庇った人ですよ」


「…?何言ってるのか分からないんですけど。涼太は、『黄瀬』って名字じゃないですよ。私と同じ『松奏院』です」


そのときふわりと、後ろから抱きしめられた。
ああ、この匂いは涼太だ。


「…そうっスよ。名前が言ったとおり、俺は『黄瀬涼太』じゃなくて『松奏院涼太』っス。名前の双子の兄っス」


「「「「「!?!?」」」」」


信じられないという顔をする5人。


「おい、黄瀬。お前、嘘ついてんじゃねえよな?」


青の人が言った。


「嘘なんか言ってないっスよ。名前が言ったじゃないっスか。その耳は飾りっスか?」


「っ、てめっ」


「青峰、落ち着くのだよ!」


今にも涼太に突っかかってきそうな青を止める緑の人。
まあ、今のは涼太が悪いよね。


「…赤司くん」


「…ああ。本当のようだな、テツヤ」


ぎゅう


急に涼太の抱きしめる強さが強くなる。


「…涼太?」


「…なんでもないっスよ。ねえ名前。先に帰っててくれないっスか?」


「…うん、わかった」


「移動術使ってくださいっス」


「え、どうし…うん、分かった」


なんで術を使わなきゃなの。
そう思って涼太を見ると、拒否を聞かない瞳をしていた。
これは、私が折れるしかないよね。
私は、術を使うことにした。


「     」


私は、呪文を唱える。


「あっ、」


跳ぶ瞬間、赤の人の瞳が。
オッドアイが大きく揺れた気がした。