呆気ないと思った。
「―――三千年も前から貴方は、勝てない相手でしたが……簡単に死ぬものですね」
昔から辰也様は最強の存在だった。
絶対の存在だった。
なのに、こうも簡単に死ぬなんて。
「……あ、なあにテツヤ?君が殺したかった?」
「……いいえ、別に」
「そう。でもだーめ。辰也を殺すのは僕って決めてたから!だって、君が殺すより惨い殺し方できるでしょ?そうすれば、名前にこの惨劇を刻めるからね!あはは!」
櫻様は狂ったように笑っている。
あの時、名前に連れられここに来た時も、狂ってると思っていた。
「―――こんなことも、すべてすべてお前が悪いんだからね?黒子テツヤ」
「は?」
「だーかーらー、全部お前のせいだって言ってるの!」
胸の中にいる名前が震えている。
櫻様の言っている意味が理解できない。
「あの日、あの時、お前が名前に出会ったのが悪いんだよ」
あの日、あの時。
それはいつ?
「…櫻様、意味が分かりませんが」
「………な」
「え?」
その瞬間だった。
少し離れたところにいた櫻様が目の前まで迫っていた。
「ふざけるな!お前が僕らの運命を壊したんだ!!お前が僕と名前の運命を変えたんだ!!!」
群青の瞳に睨まれる。
この瞳に睨まれたことがある気がする。
「だから、お前ら黒子家に末代まで残る『業』を与えてやったんだ!!」
どくり、と心臓が動いた。
そうだ、この瞳をこの声を聞いたことがある。
「――ねえ、名前?君は覚えているよね?」
「さ、くら…」
胸にうずくまっていた名前が顔をあげた。
「ああ、泣いてしまったんだね。ごめんね、僕の愛しのお姫様」
櫻様は名前に手を差し伸べる。
その手を自然にとる名前。
「さくら、さくら」
「うん。僕はここにいるよ。ほら、テツヤのところじゃなくて僕の元においで」
「さくら…」
名前の温もりが離れる。
僕はずっと名前の『特別』だと思っていた。
だけど、そんな『特別』は櫻様の前だとちっぽけなものだ。
「ねえ?名前。昔に戻ろう?僕は月だ。君と一つになりたいんだよ」
月は太陽を愛している。
そんな昔話を聞いたことがある。
「ねえ、そしたら『代わり』もいらない。僕が表に出ればいいんだから」
何かが壊れる音がした。