櫻籠り哀歌

血に濡れた物語

ニヤリと笑った櫻。
そんな櫻を睨み付ける辰也くん。


「……どうせは、君も僕の糧になるだけだよ」


「何を、言って……―っ!!」


がぶり、と辰也くんの肩に噛みついた櫻。


「櫻様っ!?」


「櫻!何してるのっ!!」


私は慌てて立ち上がり、牢の外へと出た。
なんで、噛みついてるの!
まるで、辰也くんを食べようと……


「まさか、櫻!!」


櫻は、辰也くんを食べるつもりなんだ。


「――名前、だめだよ。今食事中なんだから邪魔しないでね」


「っ!!櫻っ、」


辰也くんが苦しそうに声をあげた。
血が舞う。
鉄の匂いが漂う。


「うっわあああああああああああああああああああ」


ぐじゅる、と生々しい音が聞こえる。
骨を折る音も、肉を食べる音も。
目の前の光景に、吐き気がした。


「名前、見ない方がいいです!」


テツヤは私の顔を胸元に押し付ける。


「気持ち、悪いですね」


「どうしよ、辰也くんが辰也くんが」


辰也くんの叫び声が止まらない。
血が噴き出る音も聞こえる。


「辰也、君の壮大な夢も終わり。刀を手に入れる予定だったんだろうけど残念。刀はもともと僕のものだからね」


びしゃ、と何かが落ちる音がした。


「……うん、辰也、君も松奏院家なだけあるよ。一応美味しかったよ?」


さっきまで聞こえていた辰也くんの声が聞こえなくなった。
それは辰也くんの死を現実として知らしめていた。


「あ、あ、あ、ああ、た、つや、くん」


「名前、残念だったね。君の愛しいお兄さんはもう死んだよ。こんな無残な姿に成り果ててね」


そこにあったのは、ただの肉の欠片や骨。
血の匂いが蔓延していた。


「でも、いいよね?辰也がたとえこの世から消えたとしても君には関係ないよね?だって、名前の全ては僕のものなんだからね?」


私は何が悲しいのか分からず、床に座り込み涙を流すことしかできなかった。


「ああ、なあに?嬉し涙?あはは、だよね!これでやっと邪魔ものが消えたんだもんね!」


顔に着物に血や肉片をこびりつかせている櫻は、嬉しそうに笑うばかり。


「―――まるで血に濡れた物語だね」


私の呟きは誰にも届くことがなかった。