櫻籠り哀歌

君の願いはここで終わったんだよ

あの日の、僕たちに戻ろうと思うんだ。


――――――


「櫻、」


「うん、久しぶりだね。あれ、でも先日会ったか」


「櫻、」


「どうしたの?名前」


櫻に名前を呼ばれた瞬間、彼に抱き付いていた。
腐臭のしない不思議な香り。


「名前、『俺』ばっかりじゃなくて僕にも抱き付いてよ」


「まあまあ、それで?『俺』を呼び出した理由は?」


「ん、ああ。そうだった。ねえ、役者をそろえてきてほしいんだ。そろえば僕たちの願いが叶うよ」


「!」


びくり、と櫻が反応した。
そういえばさっきから言っている櫻の願いって何だろう。


「ああ、なるほど。やっと叶えられるんだ」


その瞬間、私が抱き付いていた存在は風のように消えた。


「――役者…?」


櫻に辰也くんが聞いた。


「うん、役者だよ。あはは!辰也、君の壮大な計画をぶち壊してあげる!あははは!」


「へえ、君にできるならね」


その瞬間だった。


「っ!!!!!!」


見えない何かが辰也くんを攻撃した。


「ねえ、辰也。君が忘れたならもう一度思い出させてあげる。君は僕の玩具だよ。君くらい、簡単に殺せる。だって、辰也、君は僕の子孫なんだからね」


「はっ」


辰也くんは切れた皮膚の血をなめる。
着物も所々破けていた。


「さっきまでは僕は君の掌で踊らされるのを良しとしてたけど、今から辰也は僕の掌で踊らされるんだよ」


ガシャンッ


「え、櫻っ?」


「櫻様!?」


いつの間にか、櫻を縛っていた鎖が外れていた。
無残にも床に転がる鎖たち。


「残念だね、辰也。君はもう永遠に願いを叶えられないよ」


いつの間に辰也くんの目の前にいたのだろう。
この牢屋から出ていた。


「……どうせは、君も僕の糧になるだけだよ」


ニヤリと笑った櫻の口から犬歯が覗いていた。