櫻籠り哀歌

たとえば君が死んだとして

現実を突きつけられたとき、死のうと思った。
だけど、それを救ってくれたのは彼女で。
色をくれたのはもちろん彼女で。
絶望に染まった世界を希望に満たせたのは彼女で。
ずっとずっと、我慢してきた。
運命だって捧げてきた。
例え、彼女と交わることは一生ないとしても。


――――――


「――――――殺しに来たよ、櫻。そして黒子くん、君も」


冷気が漂った。
声の持ち主は、辰也くんだった。


「っ、辰也様っ!?」


カキン、と刀が交わる音がした。


「っ、殺しに来たというのはどういうことでしょうか…?」


「そのままの意味だよ。君はいらない存在だからね。消しておこうと思って」


「そう、ですかっ――――守護、黒石真断」


淡い光がその場を照らした。
その淡い光は、暗闇にいた私には眩しくて目を閉じた。


「……テツヤが『黒石真断』を持ってたんだ」


櫻が呟いた。
綺麗な群青色の瞳は、テツヤが持っている刀を真っ直ぐに見ていた。


「ほんと、君の刀ってやっかいだよね」


辰也くんは、ちっと舌打ちをした。


「これは、僕に名前が授けてくれた能力です」


「そう、そこが厄介だよね。名前が授けてくれたていうのが。君たちが持っている刀はすべて名前が授けたもの。名前の一部だ」


「…ええ。名前の命の欠片が宿ってます」


「……その、刀が欲しいんだよ」


ぼそりと辰也くんが呟いたのが聞こえたが私には届かなかった。


「その能力は確かに名前があげたものだよ」


櫻が声を出した。


「でも、その刀は僕の骨だ」


「え、」


テツヤの驚いた声が聞こえた。


「君たち6人と、花宮家・木吉家が持っている刀はすべて僕の骨から作り出したものだ」


ちゃり、と鎖が動いた。
櫻が一歩ずつ前へと進む。


「櫻っ!」


「僕の…………この躰になる前の躰の骨から作り出したものだ」


どくん、と強く心臓が動いた。


「櫻、」


「ああ、久しぶりだ。僕の『元の』躰の…」


「櫻、」


櫻は私の声を聞かずに進む。
テツヤの刀へと手を伸ばした。


「あははははははははははははは!!!!これで、これでっ!!あはははははははははははははっ!」


不気味に笑いだした櫻に、私とテツヤ辰也くんはびくついた。


「名前!喜んで!!やっと、やっと僕と君の願いが叶えられるよ!!あははは!!」


「櫻…?」


「そうか、そうか、そうか!これでこれで成し得なかった願いがっ!!」


狂ったように笑いだす櫻。
私は、その場を動けないでいた。


「黒子テツヤ!君は、最高だよ!!あはは!この場にみんな用意しなきゃね!役者を本当に揃えなきゃ!そうしないとだね!あははは!!」


鎖なんて気にせずに、笑いながらその場をくるくると回る櫻。


「あは!名前!これで、やっと僕らは幸せになれるんだよ!!」


パチンと指を鳴らした櫻。
そこには、もう一人の櫻の姿があった。


「―――急に呼び出すなんて、ひどいね」


「あっ、」


彼は、私のもとに歩んできてしゃがみ同じ目線になる。
そして、冷たい手が頬を撫でた。


「久しぶり、名前」


ポロリ、と涙が伝った。