櫻籠り哀歌

『これは3人の秘密』―陸

やっとの思いで外に出た。
名前も少し落ち着いた顔をしている。


『…ごめんね、急に』


『いえ。僕は名前と運命共同体ですからね』


『そう言ってもらえると私も教えたかいがあるよ』


僕は名前に手を引かれ来た道を戻る。


『テツヤは黒子家だから、これからも大変だろうけど…よろしくね』


眉を下げた笑いをする名前。
そんな表情をさせたくない。
見たくない。
そう、思った。


『僕はずっとどこまでも名前についていきますよ。だって僕の主はただ一人名前だけです。名前が嫌がろうとついていきます』


例えあなたが死のうとも。
死んだ先まで僕はついていきますよ。


『ありがと、テツヤ。ずっとずっと一緒にいてね』


『はい、わかってます』


小さいころから父に教えられてきた、黒子家の業。
血に深く刻みついている、松奏院家の主への忠誠心。


『――――私はまだ、能力には目覚めてないけど、これからもよろしくね』


『僕の主は誰が何と言おうとも名前です。これは一生変わらないです』


いつの間にか、いつもの松奏院家の屋敷に戻っていた。


『――姫様っ!』


『あ、征十郎!』


塀のところにいた赤司くんが名前を見つけた瞬間、走ってきた。


『どこに行ってたのですか!?―――ああ、テツヤがいたのですね』


『征十郎は、堅苦しいね。従者もしなくていいのに…』


『いえ、旦那様のご命令なので』


『もーお父様もお父様だ』


『ねーテツヤー』と僕に首を傾けて聞いてきた。
そうですね、僕も名前の従者は僕だけで…まあ、紫原家の人もいますが…他人はいらないと思います。


『――テツヤはずるいね』


僕の耳元で赤司くんが呟いた。


『ええ、僕は黒子家の人間で名前と運命共同体ですから』


その僕の言葉に、悔しそうに顔を歪めた赤司くんが視界の片隅で見えた。


――――――


君になら運命だってなんだってあげる。
それで君が泣かないで済むなら、なんだってあげる。
この命だって、すべて。


ずっとずっと、そう思って生きてきた。
そう思って名前に尽くしてきた。
何年も何百年も何千年も。
きっと、貴女と初めて逢った日から。