目の前でテツヤが倒れる。
『…っ、テツヤ!!』
私は、テツヤに寄ろうとするが櫻に抱きしめられ傍に寄れない。
『名前、行っちゃダメ。君は自覚しなきゃだめだよ。この松奏院家の姫だということをね』
ドクンと心臓が動いた。
『そして、僕の、俺の片割れであるということもね』
その瞬間、唇に何かが当たる。
それは、櫻の唇だった。
『―――っ!!』
『名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前』
名前を何度も何度も呼ばれる。
それは、私の存在を確かにするものだった。
『愛してる愛してる愛してる、愛してるんだ、名前』
見たこともない櫻の表情。
その表情にびっくりした。
『……僕らが双子で生まれてきたことはきっと運命だったんだね。これで、あの日無くしたものを――――』
『…櫻?何を言っているの?』
『ああ、ごめん。君は何も覚えてなかったね。そういうことにしたから…』
『……?』
『さあ、黒子テツヤを起こして明るい世界に戻りなよ』
ちゃり、と鎖が動く。
櫻が立ったようだ。
そして、テツヤの傍に行く。
『……君は、あの頃とあの日と何も変わらないね』
櫻の群青に瞳は、優しく細められていた。
櫻の血の付いた手がテツヤの顔を撫でる。
『……僕は、俺は君が大っ嫌いだよ』
パチン、と指で鳴らした音がした。
その刹那、テツヤの瞳が開かれる。
『―――起きた?それなら早くここから出てってね?君がこの神聖な場所にいるだけで不快だよ』
『櫻!!テツヤ、大丈夫!?』
『あ、はい…大丈夫、です』
櫻の瞳が私とテツヤを見る。
『二人とも、秘密だ』
『え?』
『これは3人の秘密、だ』
櫻の顔は見えないけれど、声だけははっきり聞こえた。
『わかってるね、他言無用だよ』
暗くて顔が見えないはずなのに、群青色の瞳だけが見えた。
『――わかってるよ。また来るね櫻』
『うん、待ってるよ。愛しい愛しい僕の半身』
私たちは、重苦しい部屋を後にした。