『黒子家、が忠誠を誓う、理由ですか』
『うん。僕が、その理由だ』
群青の瞳が、真っ直ぐに僕を見る。
『まあ、僕と言ってもいいけど、名前もその理由の一つだ』
名前の瞳も僕を見つめる。
『この松奏院家は、昔から権力を持っていたがここまで大きくしたのは今の当主…僕らの両親だ。でも、その両親には一つ、欠点がある』
『…、旦那様と奥様に欠点…?』
『そう欠点。僕らの両親には松奏院家特有の、摩訶不思議な能力がない』
『…!!!』
旦那様と奥様には力がない…?
『松奏院家の当主になるには絶対条件として、力が必要だ。そこで、両親は考えたんだ―――ないなら、作ればいいってね』
ぞくり、とまた悪寒が走った。
『そこで生まれたのは僕ら双子だ。だけど、生まれた時から僕は力が強すぎて暴走しちゃったからさ。こうやって閉じ込められてるんだ』
『…櫻は、私のために閉じ込められてるの』
『…え?』
意味が分からない。
頭が追い付かない。
『櫻は私の一部であり、私は櫻の一部。私が太陽なら櫻は月』
淡々とした口ぶり。
普段の名前からは想像もつかない。
『僕は松奏院家の秘密を全て持ったまま生まれてきてしまったんだよね。君たちはその秘密に助けられたから忠誠を誓ってるんでしょ?』
秘密、秘密?
それは、どんな秘密?
『…名前に救ってもらったんでしょ?助けてもらったんでしょ?命を懸けて救ってもらったんでしょ?』
どくり、と心臓がひどく強く動いた。
『……名前は、君の家を救った姫であり、その姫の力だったのは僕だ』
どくんどくん、心臓がうるさい。
痛いくらいうるさい。
『特殊な家系だった黒子家に存在意義を持たせたのは、名前だったのを、君は忘れたのか…!?』
頭に何かが響く。
痛いくらい何かが叫ぶ。
『櫻!もう、これ以上テツヤを苦しめちゃだめだよ!』
『名前は、黙ってて!これは、僕ら3人だけの秘密であり確執だ』
『い、たい…』
痛い痛い痛い。
頭が割れるくらい痛い。
『黒子テツヤは、特別なんだ!だから、』
『櫻っ!!』
群青の瞳、どこかで見た。
その瞳は、いつも優しく細められていて、僕に。
僕に、笑いかけてくれたのを覚えている。
『テツヤ!!』
この腐臭に酔ってしまったのだろうか。
僕の意識は、暗い闇へと沈んでいった。