櫻籠り哀歌

『これは3人の秘密』―弐

暗い暗い太陽の光も届かない古びた部屋の中。
そこには木造の柵があり、顔を歪めたくなるほどの腐臭と血の香りが蔓延していた。


『それで、もう一人違うにおいがするね。誰だい?こんなところに誰を連れてきたの名前?』


その場所にいたのは、高い少年の声の持ち主。
きっと僕と同い年くらいだろう。


『紹介するね、黒子テツヤだよ。私の従者』


『黒子、テツヤ…?』


彼に名前を呼ばれびくりと体が震えた。


『黒子、テツヤだと…?』


『…?何か変なこと言った?』


『…っく、くははははっはははっははっははっははは!』


急に笑い始めた彼に、僕と名前はびっくりした。


『そうか!黒子か!しかも黒子テツヤか!あはは!』


『……僕が、何か?』


『あはは、ごめんごめん。ある意味一番可哀想な一族の末裔くんか』


『…!!知ってるんですか』


『知ってるよ、君の家のことならね。あはは、黒子家の君なら大歓迎―――と言いたいところだが』


『―っ櫻!』


声が低くなった、と思った。
そして、名前が彼の名前だと思われる言葉を放った。


『―――この場所は、僕と名前だけの大切な秘密の場所なんだ、誰であろうとこの場を穢すことは許さない。他人が入ってくることは許さない』


一気に闇が僕を包んだ。
見えない存在が、確かに僕を見据える。


『櫻!やめて!』


『…名前』


ちゃり、とまた鎖の音がした。


『今、そっち行くね』


『……うん、』


くいっと名前に着物の袖を引っ張られる。
これはついて来いっていう合図なのか?


『テツヤ、彼の名前は櫻っていうの。ずっと生まれた時からここにいるから塞ぎこんじゃってて…ごめんね?』


『…いえ、』


『そして、私の双子の兄、だよ』


人物の影が見えてきた。
だんだんと輪郭がはっきりしてきた。


『……え、』


名前と同じ漆黒の髪に、瞳は群青色。
顔が名前と瓜二つだ。


『…、ふた、ご?』


『そうだよ。僕と名前は双子。正真正銘血が繋がっている。血を分けた唯一の分かり合える僕の半身だ』


彼―――櫻様は、両手首、両足首、首を鎖で繋がれていた。


『――黒子テツヤ、君にとってはここはきついだろう?僕の負の空気と腐臭、血の匂いが蔓延してるからね。光しか見てきてない君にはつらいよね』


群青の瞳に真っ直ぐ見つめられる。
体が動かなくなった。


『…櫻、テツヤをいじめないで。あと、また力を使うと怒られるよ?』


『名前、』


ぎゅうと、血が付着した着物で名前を抱きしめる櫻様。


『名前、やっとやっと僕に会いに来た。ずっとずっとずーっと待ってたんだよ?』


『ごめんね』


『…ううん、いいよ。だって今日こうして来てくれたんだから』


櫻様の表情は、さっきとは打って変わり年に合っている表情だ。


『こーして、愉快なものを連れて来てくれたんだからね』


にやりと笑い僕を見つめてくる櫻様、冷や汗が流れた。