深い深い森の奥に『それ』はあった。
『名前!どこまで行くのですか!』
『もうちょっとだから!』
名前は昔からお転婆な姫だった。
草木が生い茂り、行く手を阻んでいても気にせず進んでいく。
だんだんと感じる恐怖に足が竦んでいく。
『ついたよ!』
名前に言われ顔をあげると、そこには古びたお屋敷があった。
『え、こんなところ…』
ガラガラ、と戸を開け入っていく名前。
その姿に慌ててついていく。
『…こんなところに秘密が…?』
『うん!大切な秘密!』
暗い屋敷、人が住んでいる感じがしない。
それでも名前は進んでいく。
『あ、これから下に降りるね』
名前は、ぎぎっと隠し扉を開け地下への階段を見せた。
『…ーっ!!!』
隠し扉を開けた瞬間、黒い怒号に、嫌な腐臭。
血の香りもする。
『…っ、名前は平気、なのですか…!?』
『え、うんまあ。多少は気になるけど、しょうがないもん。生きていくにはこの匂いになれなきゃいけないし』
『…?』
名前の言っている意味が分からない。
そうこうしているうちに名前は階段を降り始めた。
かつ、かつ、
僕たちの靴音だけが響く。
下に降りるにつれ、匂いがきつくなる。
今すぐにでも吐きたくなる。
頭がぐるぐるする。
『…テツヤ、大丈夫?つらいよね…』
名前の心配そうな表情。
その表情を見て、僕は無理やり笑い名前を心配させないようにした。
『大丈夫ですよ、行きましょう?』
僕を心配そうにしながらも名前は歩き続けた。
どれくらい歩いただろう、名前がいきなり止まった。
『ここ、だよ』
目の前には古びた扉がある。
名前が開ける。
それと同時に、さっきよりも強い匂いが鼻に入ってきた。
『〜〜っ!!』
きつい匂いに急いで鼻を押さえる。
この匂いでも名前はきつそうな表情をしない。
きついというよりも、哀しい表情をする。
その刹那。
『―――――誰?』
凛とした、高い少年の声が聞こえた。
『あ、起きてたの?』
『ああ、その声は名前だね。うん、君の桜の匂いもする』
名前も、暗闇の中にいる人物を知っている?
それでもこの暗闇に人がいたとは。
『それで、もう一人違うにおいがするね。誰だい?こんなところに誰を連れてきたの名前?』
チャリ、と鎖の音がした。