櫻籠り哀歌

幸せな夢から覚めて絶望に染まればいい

暗くて見えないはずの櫻を真っ直ぐ見る黒子さん。


「……、そういえばそうだったね。名前が連れてきて、僕を秘密を全てを、松奏院家の全てを話したんだったね」


「ええ、そうですね。ですが、僕は松奏院家と運命共同体なので」


運命共同体…
どこか、懐かしい。
聞いたことある。
知っている気がする。
あれは、確か森の…


「名前、考えることをやめて」


ピシリと、頭の中のグルグルがなくなった。


「名前、君ってほんと罪深いね。あの時はこんなことになると思ってなかったからさ、許してたけど。今になってその優しさがつけとなってくるとはね」


「さ、くら…?」


「でもね、そんな名前も愛しい愛しい妹だからね。愛してるんだよ」


「え、」


「僕はずっとずっと生まれた時からこの闇しか見たことがない。月も太陽も見たことない。でも君は外に出れた。僕には見ることのできない外の世界を見ることができた。いつもいつも名前の話す、外の世界についての話はキラキラしていた。僕にとっては名前が外の世界そのものだった」


首筋に暖かい息が当たる。
それがくすぐったい。


「僕の狭い世界には名前が全てだったんだ。辰也があんな余計なことしなきゃ、何もかもは狂わなかったのに…」


「な、にを言ってるの?櫻…」


「…黒子テツヤ、君はなぜ僕がここに閉じ込められているか知っているよね?」


櫻は私の問いかけには答えず、黒子さんに話を向けた。


「―ええ、知ってますよ。だって、何もかも話してくれましたから名前が」


「だろうと思ったよ。僕と俺について知ってるのは黒子家と紫原家の特権だから仕方ないけど、ほんとさ…いらない情報まで知ってるんだ」


「名前をいじめないでください。僕はもともと『知る権利』は持っているはずですよ」


そう言った黒子さんにあからさまに櫻は舌打ちをした。


「ねえ、何の話…?」


「―――いいよ、思い出させてあげる。僕ら三人の小さい小さい、だけど大きな秘密のお話」


その瞬間、私たちは意識を失った。


――――――


ふと、その場にもう一人の気配があった。


「…黒子くんもここには入れたんだ」


目の前には、眠っている黒子くん。
柵の中にはきっと黒子くんと同じように眠っている名前と櫻の姿があるのだろう。


「……ほんとに、馬鹿な名前。俺のことを選んでればこんなに残酷な結末にはならなかったのに」


だけど、そんな君が好きだよ。