「―――――救ってあげる?よくそんなことが言えますね」
この場に似つかない声がした。
「……お久しぶりですね、名前。そして、櫻様」
そこにいたのは、空色の髪に黒の着物を着た黒子テツヤが立っていた。
「黒子、さん。どうしてここに…」
「僕は貴女とともに松奏院家の最初から共にしてきた『黒子家』の人間ですから」
にこりと笑った黒子さんに、懐かしさを覚えた。
その時、ぎゅうっと後ろから体を抱きしめられる。
強い、腐臭の匂いがした。
「黒子、テツヤ…!!お前、よくここに入ってこれたなっ!!」
「櫻様、お久しぶりですね。かれこれ、二千、いや三千年ぶりくらいになりますか?」
「僕の質問に答えろ!」
「答えますよ。僕は『黒子家』の人間です。そして、貴方達双子の秘密を知るただ一人の人間ですよ。辰也様も知らない秘密を知っている…だから、僕は入って来れたのですよ」
「…っ!」
苦虫をつぶしたような顔をする櫻。
「黒子さん、が私たちの秘密を知っている…?」
「ええ。知ってます。櫻様のもう一人の櫻様も。名前が教えてくれたのですよ?」
―――仄かに香る、古臭い匂い。それに、血の匂いと腐臭が混ざっている匂いが混じっていた―――
今でも覚えている。
『テツヤ、みんなには内緒だよ?これは、私とテツヤだけの秘密』
『秘密、ですか?』
それは、前世の前世でのまだ名前と僕が5歳くらいのときの話。
『うん!だって、私とテツヤは運命共同体なの!お父様が言ってた!だからね、教えてあげる!』
繋いでいた手は、小さくて暖かくて。
僕にはもったいないと思った。
『あ、だけど私とテツヤだけの秘密じゃないや!』
『え?』
『3人の秘密ね!』
桜色の着物を翻し、僕に向かって微笑みかけた。
その微笑みは、僕にとっては何を意味指すのかまだわからなかった。
『黒子家と松奏院家は運命共同体ってすごいね!』
『ええ、そうですね』
彼女に手を引かれずんずんと進んでいくのは、誰も人の通ったことのない山の中。
草木を分けながら進む名前。
その小さい背中が僕にとっては、命よりも大切だ。
彼女のためなら。
『あなたとなら…』
運命共同体なのだとしたら。
彼女のためなら、名前のためなら。
運命だってあげる。
僕の全てをあげる。
『このまま、どこまでも…』
―――だんだんと近づく闇に彼女は笑っていたが、僕には恐怖しか感じられなかった―――