櫻籠り哀歌

さて、選択の時間だ

辰也くんがいるであろう辰也くんの自室へと向かう。
辰也くんは人を自分の部屋に入れるのって嫌な人だからな。
私は2回だけ入ったことがある。
今吉さんはいつも自由に出入りしてるかも。


「名前お嬢様、」


そのとき、辰也くんの部屋の数歩前で今吉さんに声をかけられた。


「あ、今吉さん」


「待っておったで。辰也様がお待ちや」


そう言って、今吉さんは辰也くんの部屋の襖を開けた。
そこからは、蝋燭の光が漏れていて、少し怖くなった。


「さあ、早くお入り」


今吉さんに諭され、部屋に入る。
その瞬間、ピシリと閉められた。


「……やあ、名前。この部屋に入るのは久しぶりだね」


聞こえてきたのはいつも通りの辰也くんの声で安心した。


「名前、こっちにほら、近づいて。名前」


手を差し出され、私はその手に惹かれ前へと一歩を踏み出した。


「名前」


近づいた瞬間、抱きしめられた。
ふわりと香る、独特な匂い。
……なぜか、血の香りがした。


「名前、愛してるよ」


そのまま、辰也くんは顔を近づけられ唇を重ねさせられた。


「んっ!!!!」


「んふ、名前、」


熱い声、それに熱の篭った瞳。
そして、酸素を得ようと開いた口に入ってきた熱い舌。


「んうっ、んっ」


「名前、ん、名前」


やっと、離されたと思ったらまた、顔を近づけてきた。


「辰也く…っん!」


どれくらい時間がたっただろうか。
やっと離された時には、私は腰が抜けていた。


「ねえ、名前」


「……ん、」


首を縦に振ることしかできない。
そんな私は辰也くんの膝の上にいた。


「俺ね、名前のこと愛してるんだ。ずっとずっと、ずっと昔から。だから涼太じゃなくて俺を選んでほしい」


「え…?」


「ねえ、涼太じゃなくて俺を選んでよ。俺を」


「で、も…私は、」


「…何?俺じゃなくて涼太を選ぶの?―――そしたら、涼太は用済み、かな」


「…え?」


用済み?
そういうこと?


「そのままの意味だよ。さて、名前」


「な、に…?」


辰也くんの笑顔が怖い。


「君にはお仕置きが必要だね」


「!?」


「君に、痛くて重くて愛しくなるお仕置きをあげる」


私は、辰也くんの言葉を最後に意識を闇に沈めた。