櫻籠り哀歌

愛されたかった

「……名前?」


「あ、涼太」


家の中の長い廊下を歩いていると後ろから着物を着た涼太が声をかけてきた。


「…どうしたの?」


じっと見つめてくる涼太。
しゃべろうともせず黙ったままだ。


「―――…ずっとずっと」


「え?」


やっと口を開けたと思ったら、いつもよりも低い声だった。


「俺は、ずっと名前の願いだけを…」


「涼太…?」


『願い』?
私は何か涼太にお願いをしたっけ。


「名前、俺は……」


「ん?名前と涼太じゃねーか」


その時、後ろから真の声がした。


「真!」


「…真っち、」


「…名前、辰也様が呼んでたぞ」


「え、うそ!ありがとう!」


私は、二人に背を向け辰也くんがいるである方向へと向かった。


「―――真っちありがとうっス」


「……別に。それで?お前は、名前に何を言おうとしたんだ」


「昔の、昔からの俺の願いを言おうと思って…」


涼太の言葉に花宮は目を見開く。


「っ!お前っ、そんなの言ったら元も子もねーじゃねーか!」


「…ちゃんとわかってるっスよ」


「………涼太、お前はずるいよな。ずっとずっと羨ましかった」


「え?」


「…今も昔もお前のことが俺は嫌いだよ」


「――知ってるっスよ」


そう言った涼太の顔は無表情だった。
その涼太の表情に花宮は、唇を噛みしめた。


「お前の持っている、黄色い珠は偽物のくせに」


「っ!!」


目を見開く涼太。


「お前と違って、俺は本物の白い珠を持っているんだからな!だから、俺とお前、お前と名前は違う。勝手な真似すんじゃねーよ」


花宮は言うだけ言って、涼太に目をくれずにその場を去った。


「―――偽物、スか」


そこには、自嘲気味の笑いをする涼太しかいなかった。