櫻籠り哀歌

氷の闇に落ちてゆく

いつから君は俺の中に入ってきたのだろう。
そんなの自分でわかってるつもりだった。


――――――


「………騒がしい夜だ」


ふと、障子に背中を預け片足を立てて月明かりと星のみが照らす庭を見つめている辰也が呟いた。


「なんで、あの子は俺の言う通りにならないかな…」


辰也は、もう真上まで上がっている月に向けて手を伸ばす。
だが、空気を掴むだけ。


「なんで、俺の元にいないかな…なんで、俺に愛をくれないのかな」


なんで兄妹で生まれた?
それさえなければ、俺は名前となんの隔たりもなく愛しあえたのに。


「この時代では、俺じゃなくて涼太が選ばれるに決まってる」


なんでこうも名前については、計画通りに行かない。


「…前の時代は、俺は朝廷に売られたからな」


ずっと暗いところで閉じ込められ、やっと出られたと思ったら売られる。
大人ばかりの世界に行かされ、名前を手に入れるために権力を持たなければならなくて帝になった。
だけど、だけど。


「ほんと、いらつくな」


忌々しい従者たちめ。


そのとき、ギイっと廊下が軋んだ。


「――辰也様、」


目の前に跪いたのは、今吉だった。


「木吉家の『園川血盟』が見つかったらしいで」


「…そう」


今までの狂った計画なんて、今では修正している。
というか、その狂った計画も計画のうちだ。


「そして、名前お嬢様は涼太様と赤司征十郎と櫻様にお会いしてただいま帰ってきたところや」


「……へえ、赤司に会ったの?」


「記憶は少々思い出してるみたいや」


忌々しい。
あの、赤髪。


「…そう。ありがとう、そのまま監視しといて」


「はい。我が主」


今吉は、深々とお辞儀をして来た道を戻っていった。


「……これで、刀が全て揃った」


紛失していた、木吉家の刀も見つかったしな。
ほんとうまいこと、計画通りに進んでる。


「…あとは、名前が全て思い出せば」


そうすれば、もう俺から離れなくなる。