櫻籠り哀歌

君になら何でも

君に何もかもをあげようと思った。
運命も何もかも。
そしたら君は俺を振り返るかと思っていた。


‐‐‐‐‐‐


「ねえ、黒ちん」


「なんですか?紫原くん」


ある屋敷の中、黒子と紫原が縁側に座っていた。


「俺らって、ほんと過酷な運命背負ってるよねー」


「そうですね」


「…俺、」


ぼそり、と紫原がつぶやいた。


「はい?」


「俺、黒ちんが嫌いだよ」


「……」


「だって、何よりも名前ちんに近しい存在だからね」


「…ただ、僕の母が名前のお父様の妹だっただけですよ」


そのことを何度悔やんだか。
名前と血が繋がっている。
それがどれほど嫌か。


「紫原くんのほうがずるいですよね、血の繋がりはないのに『特別』だ」


ぎりっと、唇を噛む。
少し鉄の味がする。


「…ねえ、紫原くん」


「なにー?」


「あなたは、会ったことがありますか?あなたは、知っていますか?」


「は?」


「松奏院の秘密に、会ったことはありますか?」


『テツヤ、みんなには内緒だよ?これは、私とテツヤだけの秘密』


―――彼女の手に掴まれ行った先にあったのは―――


「……秘密?」


「はい。秘密、です」


―――ひどく暗い、闇だった―――


ねえ、君になら運命だってあげる。