櫻籠り哀歌

僕のものにならないなら

あの日、貴方に会ったのは運命だと思った。


あの日、貴方が声をかけてくれたのは運命だと思った。


‐‐‐‐‐‐


目の前には、暗い瞳の赤司さんがいる。
赤司さんの持つ刀は炎がまとわりついていて。
私は、ぎゅうっと櫻の着物にしがみついた。


「…姫、様」


やめて。
呼ばないで。
姫様なんて呼ばないで。


「僕のものにならない、僕の元にいない姫様なんて嫌いだ」


「っ、え」


そんなこと言わないで。
そう思う自分がいる。
でも、さっき彼を否定してしまった。


「…あの日から、君を守ると誓ったのに」


「あの、日…?」


あの日っていつ?
すると、横の二人が肩を揺らした。


「赤司っち…!!言うなっ!」


涼太の焦った声が聞こえる。


「あなたの力で初めて人を殺した日っ…!!!」


『僕が僕が、ずっと貴女の傍にいますから…』


嫌だ。
思い出したくない。


『もう、絶対姫様の傍から離れませんから…』


そう、だ。
あの日、私が人を殺して、血まみれの私をずっとずっと抱きしめてくれた…


「名前っ!思い出すなっ!」


櫻の声が聞こえる。
でも、その声はすぐに彼方へと消える。


「あ、ああ、っ、そうだ、あの日…っ」


私が言葉を口にした瞬間、赤司さんの口元が上がった。


「思い出した?思い出した?あの日から僕と姫様の運命は大きく変わったんだからね!!!」


あの日、私は“覚醒”したのだ。


「あははははは!ほら、姫様おいで!一緒に大きく運命が変わったもの同士ずっと一緒にいよう?」


再び差し出された手が私を誘う。
頭が混乱して正しい判断が出来ない。
そのとき、ぐっと誰かに抱き寄せられた。


「なっ!!!」


赤司さんの目が見開かれる。


「〜っ!行かないで!!名前っ!」


悲痛な叫び声が私の耳元で聞こえた。
その声は、少し震えていた。


「涼、太…」


「いやっス。いや…行かないで。ずっとずっと俺の傍にいて。ずっとずっと…」


震えている声に、私は現実に戻った。