否定の言葉を聞くとは思っていなかった。
でも、姫様の目は確実に嫌悪の情が篭っていて。
はじかれた手が現実を思い知らされる。
姫様が否定するはずがない。
僕を嫌うはずがない。
姫様は僕たちと一緒にいたいと思っている。
そう、思っているはずだった。
「え、嘘、だよね…?僕を否定するなんて、うそだよ、ね…?」
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
僕は、ずっとずっとずっと姫様を思っていたのに。
ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと。
そう、気が遠くなるほどずっと姫様のことしか考えていなかったのに。
ぽたり
左手首から流れる血が、音を立てて地面へと落ちる。
そこは僕の血が溜まっていて血の海のようだった。
そう、あの日も。
姫様を守ろうと思った日も、こうやって姫様の血が、下種な賊どもの血が地面に溜まっていた。
あの、むせ返るような血の匂いは未だに忘れられない。
いや、姫様との思い出を忘れるはずがない。
「赤司、さん…」
赤司、さん?
ふざけるな。
君に呼んでもらいたいのは名字じゃなくて名前だ。
征十郎という僕の名前だ。
どうして、呼ばない。
どうして、姫様は僕らのことを覚えていない。
どうしてどうしてどうしてどうしてどうして。
「ふ、ざけるな」
「え?」
「ふざけるな!!!!!」
自分でも大きな声がでたと思った。
でも、止まらない。
姫様への思いは止まらない。
「どのくらいの長い間姫様のことを思ってきたと思っている!?かれこれ三千年。三千年だ!!ずっとずっと君のことしか思ってなかったのに!この苦痛を君は知らないだろう!?僕のこの思いを君は理解してるはずだろう!?どれだけ、どれだけの間、君の事を思って考えて愛してきたか…!!それがどれほどの間、苦しくて憧れて嫉妬してそれでも愛してきたか…分かるかい!?」
ずっとずっと、永遠とも思える間思ってきた。
夢にも見た。
この世で再び生きるまでの間どれだけの時間をどれだけの思いを君に与えてきたか。
「……だからね、姫様」
「っ!」
ああ、なんでそんなにおびえているの?
なんでそんな恐怖の目で見るの?
なんで、どうして?
「姫様、この絆は絶対に破れない。永遠に繋がれる絆だって知っているだろう?」
そう、姫様の気持ちなんて関係ない。
姫様の言葉なんて聞かない。
だって、姫様のことなら僕は何でも知っているのだから。
「…赤司、さん。私は…」
「大丈夫だよ、姫様。分かってるよ、姫様のことなら全部ぜーんぶ」
「わたしは、その絆を、重みに思ってました」
嫌だよ。
聞きたくないよ。
嫌だよ。
「その絆を、苦しみとしか、思ってません」
嫌だ。
否定の言葉なんて。
「だから、赤司さん、もう、やめましょう?」
否定の言葉なんて聞きたくない。
聞きたくなかったのに。
「もう、疲れました」
僕ら従者の存在意義を君はなくすのかい…?