櫻籠り哀歌

いつかの夢が色褪せた

懐かしい夢を見た気がした。
懐かしい声を聞いた気がした。
懐かしい色を見た気がした。


「…んっ」


「名前!?」


涼太の声が聞こえる。
ひどく慌てた声だなあ。
なんでそんな慌てた声なの。


「…あははは!やっと目を覚ましたね姫様!これでやっと僕たちのものだ!」


ああ、この声は。
夢で聞いた声。
目を開けると、そこには刀を誰かに向けて立っている赤司さんがいた。


「…あ、あ、ああっああああ!」


「名前!?大丈夫っスか!?」


いきなり叫び声をあげた私を強く抱きしめる涼太。
なんで叫んだのだろう。
分からない。
だけど、心のどこかで脳のどこかで彼を怖がっている自分がいた。


「…名前、」


聞き覚えのある声がした。
横を見ると、群青色の瞳に綺麗な艶のある黒髪が見えた。


「え、なんで、なんでここにいるの…」


彼があの場所から出れるはずがない。
鎖につながれていて、鉄格子の中にいる部屋から出れるはずが。


「久しぶりだね、名前。君はいつになってもかわいい」


雰囲気で分かった。
そして、彼からは血の匂いや腐臭がしない。
落ち着く匂い。
月のような、私を落ち着かせる匂い。


「あ、櫻…なんで、」


「ふふ、お話は後だよ。君を壊させるわけにはいかない」


櫻の首元に突きつけられている刀が一瞬揺れた。
しかも、その刀には血が付着している。


「姫様!思い出してくれた?僕を思い出してくれた?絆を思い出してくれた?どんな力でも切れることはない絆を…!!」


「き、ずな…」


『生まれ変わっても必ず姫様を守れるように!』


生まれ、変わっても…


「そうだ、生まれ変わっても守るって…必ず、守るって…」


「そうだよ姫様!だからこうして生まれ変わって君を守りにきたんだよ!だから、さあ!おいで!僕たちの元へ!」


ああ、彼らを縛ったのは紛れもなく私で。
自らの血で縛ったのは私で。
それがどんな形で縛られたとしても私のせいで。
もう、嫌だ嫌だ嫌だ。
そうだよ。
ずっとずっと前から私はこのことを後悔していた。


「さあ!姫様!僕たちを選んで!」


差し出された手。
私は、思わず手をとりたくなる。


「さあ!」


赤司さんの手に触れる瞬間、私は手を払っていた。


「なっ!」


赤司さんのオッドアイの瞳が見開く。


「名前!?」


涼太も驚きの声をあげる。


「いや、だ!私は、ずっとずっと後悔してきたんだ!!!!」


その言葉に櫻の口元は弧を描いていた。