昔の話を覚えていますか。
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「――君たちの事なんて関係ない。姫様は僕らの元にいればいいんだから」
赤司の刀の切っ先が不思議な男性の首に近づく。
涼太は、それを見て唾を飲み込んだ。
「……関係は大いにあるよ、赤司くん。名前は君たちのものではない。『松奏院家』のものだよ」
「…さく、ら」
櫻と呼ばれた青年は、涼太のほうを向きにこりと笑った。
その表情は、暗い牢屋の中にいる彼のものなのだろうか。
彼は、こんな上品に笑う人だっただろうか。
「はっ、馬鹿馬鹿しい。姫様が僕らを選ばずに君たちを選ぶとでも?」
「選ぶよ」
すぐに返された言葉は、迷いも何もない。
確信している返事だった。
「名前は絶対に『僕』らを選ぶよ」
群青色の瞳に、赤司が冷や汗をかく。
「君たちにも切れない絆があるように、『俺』らにも切れない絆がある」
絶対に裏切れない、確かな絆。
従者5人の絆をも勝る絆。
「……何、と聞こうか」
ぽたりと、赤司の血は止まらない。
「……それは、教えないよ。秘密だ。これは『俺』と『僕』と名前のとっても大切な秘密だからね」
「……ほんと、君って初対面なのに僕をイラつかせるね。ほんとに、ほんとに…その群青の瞳も」
「お褒めの言葉ありがとう」
「…ほんとに、嫌になる。お前のたまに見せる姫様と同じ表情…っ!」
赤司は、血のついた手で頭を押さえる。
「赤司っち、」
「なんだ、涼太」
「俺ね、決めたんス」
「何を、だ」
「……君たち、5人を…殺すって」
君は、俺を非道なやつだと罵倒するだろうか。
君がもし前の時代のことを思い出したら、俺は恨まれるんだろうか。
それでもいい。
君に何十年も恨まれてもいい。
許されなくてもいい。
だから、決めたんだ。
「はあ?涼太、お前何を言ってるの?」
「…赤司っち、俺とあんた達は仲間じゃない。敵だ」
俺は、君の一番になりたい。
俺は、君の唯一になりたい。
「俺は、太陽になる」
それは、確かな覚悟だった。
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昔の話を覚えていますか。
昔の話を思い出せますか。
『…ねえ、名前。君に僕の秘密を教えてあげる』
太陽と月の秘密のお話。