櫻籠り哀歌

許して欲しくなかった

ある屋敷で不穏な空気を感じた二人の少年がいた。


「!…紫原くん!」


「あ、やっぱり黒ちんも感じた?」


「ええ。またあの禍々しい感じ」


二人は、冷や汗を流していた。


‐‐‐‐‐‐


「――面倒なことをしてくれたね」


突然現れた青年に二人は困惑の表情をした。


「…この声、まさかっ」


「君は…ああ、『代わり』だね。涼太」


「!」


いつもの彼とは雰囲気が違う。


「なんで、ここにいるんスか!?あんたは、『あそこ』から出れないはずじゃあ…!」


「…確かに『僕』は出れないが『俺』は出れるんだ」


彼は、地面に片足をつき、名前の頬を優しく撫でる。
そのとき、彼の首元に刀の切っ先が向けられた。


「…お前は誰だ。気安く姫様に触れるな」


冷たく見下ろすオッドアイ。
腕から垂れる血が地面に円を描いて落ちた。


「君は、赤司征十郎だったね。知ってるよ。名前がよく君の名前を口にしてたからね」


「誰だ」


「……はあ。さすがに君でも知らないか。まあ『俺』を知ってるのは限られた人だし」


彼の瞳が真っ直ぐに赤司を捉える。
その瞳の色に赤司は驚いた。


「っ群青色の、瞳」


「……本当に君は厄介なことをしてくれた。まさか、名前を壊す気なの?そんなのは、許さないよ」


キッと群青色の瞳で睨みつけられ、少し怯む。


「なんで、どうして……櫻」


「その名を涼太に呼ばれるのは久しぶりだね。でも、今はゆっくり話してる時間はないよ」


「っ」


「…君はちゃんと『僕』との約束を守ってもらわなきゃ…役目も果たしてもらわなきゃ困るよ?」


「っ!!」


彼―櫻の言葉に涼太は、顔をうつむかせた。


「姫様を僕たちの元に取り戻して何が悪い。僕たちは姫様無しじゃ生きれないんだよ」


「知ってるよ。だって、そういう契約だったでしょ。だけどね、『俺』もイラついてるんだ」


「…何、が」


「君達従者がさ、名前と無理やり契約を結んじゃって…名前をお前たちで永遠に縛りやがって…!」


「…無理やりじゃない。姫様も同意してくれた」


「そりゃそうさ。あの時は、そうなるよう君達が仕向けたんだから。名前にも君達しかいなかったしね」


二人の会話は、淡々と行われていた。


「『俺』たち松奏院はね、腹を立ててるんだ。だから、名前を『僕』に返してもらうためにいろいろと計画されてたのに…あっけなく壊しやがって」


それは、完全なる嫌悪が混じっていた。


「許さないよ、君達5人」


群青色の瞳には何が写っているのだろうか。