櫻籠り哀歌

序章

ふと、空を見上げるとそこには、月があった。


いつだったか、月には神様がいるらしいと伝説を聞いたことがある。


『……涼、太』


月を眺めていた少女は、誰かの名前を呟いて涙を流した。
その少女は、桜色の着物を着ていた。
だが、月明かりだけの中よく見ると、その少女の着物には、赤い血が付着していた。


『…君は、いつも私を、』


少女は、そのあとには言葉を続けなかった。


カランッ…


少女の手から音が響いた。
地面には、血に染まった黄色い珠が落ちていた。


『いつも私たちは血まみれの中にいるね』


少女は、落ちた珠を拾い、大事そうに持つ。


『ね、**』


誰かの名前を呟いた少女は、微笑みながら振り返る。
その表情は、微笑んでいたのに涙を流していた。


『もう、終わりにしようか。君との関係も、従者達との関係も』


その物語は、月だけが明るく照らしてみているだけだった。


さあ、血に濡れた物語を始めよう。