櫻籠り哀歌

触れることの出来ない夢

全て諦めた。
願うことも、思うことも。
考えることも、行動することも。


‐‐‐‐‐‐


私は、走っていた。
涼太を探して。


「(…っ、私は分かっていたじゃない。涼太がもろい存在だってこと)」


涼太は、危うい存在だって。
どうして、ずっと彼だけを見つめなかった?
どうして、彼だけを愛せなかった?


「私は、涼太を愛してる」


それだけが心にポツリと残る。
すると、前のほうに黄色の髪と赤の髪が揺れているのに気づいた。
あれは、涼太だ。
私は、物陰に隠れて成り行きを見守ることにした。


「…涼太、僕はお前を許さないよ」


「赤司っち…」


いったい何の話をしているのだろう。


「お前が2度も犯した罪を。姫様を…名前を殺した罪を!!!」


え…
涼太が、私を殺した?


ドクン、ドクン


心臓が嫌に高鳴る。
待って、私にはそんな記憶無い。
覚えてない。


「…赤司っちが名前を口にするとはね。驚きっスわ」


「ある意味、僕が『姫様』と呼ぶのは戒めだからな」


懐かしい気がした。
彼の声も髪も瞳も全て。


「俺が名前を殺したのは、あんた達に名前を奪わせないためっス」


もう、いやだ。
聞きたくない。
何かを思い出せそうな気がするけど、何かがひどくそれを拒否する。


「…最低だな」


「なんとでも言うといいっス。俺の全ては名前なんスから」


その言葉もどこかで聞いたことがある気がした。
涼太に言われたことがある気がした。
それはいつだっけ。


「…涼太、お前に僕たちの絆を踏みにじらせない」


『絆』
その言葉…


『――僕たちを、姫様に永遠に縛る絆を、下さい!』


ドクン


いやだ。


『いつの時代も名前を、迎えに行きますからっ』


痛い。
ひどく脳が痛い。


『いつの時代も、いつでもどんなときでも、あなたの傍にいるから…』


ああ、懐かしくて涙が出そうだよ。