櫻籠り哀歌

独り言に願いをこめて

俺は、刀を取り出し赤司っちに斬りつける。
寸のところで、避けられる。


「もう、なにもかも嫌なんスよ」


「何をするんだ、涼太!」


「…赤司っち。俺ね、ずっとずっと幸せだったんス」


「は?」


俺の攻撃を刀で受け止めながら赤司っちは、不審な顔をした。


「あんた達と仲良くなれて、あの時憧れてた外の世界で動いていて、そして松奏院の従者として生きれた」


「涼太っ、」


「幸せだった、あのときが一番…」


あんな輝いていた世界に俺もいれた。
幸せだった。


「だけど、鈴の音が鳴るたびに嫌でも自覚させられる」


刀と刀がぶつかる音が響く。
もう、全てが嫌だった。


「……俺は『代わり』なんだって。俺は太陽じゃない、月でもない、何にも存在しないんだって」


「何の話をしているんだ?」


「…ただの独り言っス。ただの、ね」


何もかも投げ出したかった。
あの日、『太陽みたいだね』と言ってくれた少女。
救われたと思った。
だから、守ろうと思った。
君の願いを叶えたいと思った。


『覚えておいて、涼太』


ひどく腐臭のする暗い部屋。
そこに、『彼』はいた。


『君は、僕の代わり。外に出れない、僕の代わりだ』


俺があの地下に閉じ込められてたことも人体実験に成功したことも。
俺が名前に出会ったことも『太陽みたいだね』と言われたことも。
全てが繋がっているんじゃないかって、思った。
必然なんだと思った。


「…俺は、」


赤司っちが俺が攻撃してこなくなったことに驚いている。


「限界なんだ。赤司っち」


「…涼太?」


壊してやる。
何もかも。
全て。
そして俺と名前だけが残ればいい。
そうしたらどうしようか。
二人っきりの世界で幸せに暮らそうか。
たくさん甘えさせて、そして、そして…――


「…お前も存外狂っているな」


俺は、笑って言った。


「赤司っちほどじゃないっスよ」


太陽になんか焦がれない。