櫻籠り哀歌

君と同じ名前だから

がちゃり、


そこに足を踏み入れるのは、4日ぶりだった。
相変わらず、そこは重たい空気が漂っていた。
涼太を探すのを後回しにしたのは、あとで謝らなきゃ。
だって、涼太嫉妬深いし。


「……ああ、何。最近は、お客さんが多いね。次は、君か。待っていたよ名前」


暗い暗い部屋の中、その人はいた。
暗いせいで部屋の奥は見えない。
鎖でつながれているであろう、その人を私は真っ直ぐ見た。


「…大丈夫?」


「あはは、心配してくれるの?嬉しいな」


「だって、お仕置きを受けたって聞いて…」


「ああ、やっぱり。あれは辰也がやったのか」


やっぱり、辰也くんは出したのか。


「私、もう耐えられないよ」


「…名前」


「だって、だってっ!!」


「いいんだよ、名前。僕は、名前が外の世界で笑ってくれてればいい」


「…、いや、だよ」


「…たとえ、記憶がなくても僕のことは魂に刻まれているから、忘れられないか」


鉄格子の隙間から、彼に向かって手を伸ばす。
だけど、やっぱり届かない。
君の、あの群青色の瞳を見ることが出来ない。


「存在だけは、分かるよ――――櫻」


「…久しぶりに僕の名前を呼ばれたよ」


櫻。
私の大切な櫻。


「鎖が邪魔だな。名前の顔がよく見えないじゃないか。名前に触れることは出来ないじゃないか」


ちゃり、


鎖が動く音がした。



「……名前、涼太のことよろしくね」


「うん、」


「大丈夫。僕はずっと名前だけを愛しているよ」


重い空気が動いた気がした。


「櫻…」


「ああ、会いたい。名前に会いたい。今すぐ抱きしめて口付けて、壊して…首筋に噛み付きたいよ」


「…っ」


なんて、重い愛だろう。
みんなして、私に重い愛をくれる。


「ほら、お戻り。僕は、ずっと見守ってるよ。鈴の音で」


がちゃんっ


扉が目の前で閉まった。


「櫻、」


私が桜が大好きなのは、君の名前だからなのに。