櫻籠り哀歌

振り回される恐怖の先に

世界はほんとは小さくて狭いんだよ、と誰かが言った。


その人は、ほのかに懐かしい香りがして、ひどく泣きたい気持ちになる。


「あはははははははははっ!」


愉快だ愉快だ愉快だ!
名前の記憶が僕に流れ込んでくる。


「…、これは…ふーん、『青峰さん』ねー」


懐かしい顔と名前。


「っあはっ!ばっからしっ!名前を外に出さなきゃいいのに!僕の元に閉じ込めておけばいいのに!あはははは」


もう、これだからあの5人組は嫌いなんだ。
名前を惑わせたりするし。


「…はあ、笑いすぎた。お腹空いたなー…」


辰也が持ってきた3人が最後の食料だった。
そして、今、名前の記憶を『食べた』から少しは、満たせたけど。


「…名前、来ないかなー。逢いたいなー。お腹空いたなー」


ピシャン…


雫が落ちる音がした。


「…っ、雫!?」


なんで、雫が垂れてるの!?
『ここ』は、そんな場所じゃ。


「……ふざけんなよっ、」


ピシャン…ポタ…


音が大きくなる。
目の前に現れた人物に目を見開く。
なんで、どうして、どうして、お前が…っ!!


「…食料、持ってきたよ」


「っ、お前、を、外に出した、覚えは、ないんだけどっ!!!」


“そいつ”は、にこりと笑った。


「気づかなかったの?『俺』が出てたこと」


「!?なんで、どうして…」


「それよりも、食料だよ」


どさり、と置かれたそれに、喉が鳴る。
いい匂いの血がここを蔓延させる。


「…いい匂いだろう?だって、この血には、名前の血が混ざっているからね」


その言葉を聞いた瞬間、僕は食料にありついた。
肉を切る感触、血の匂い。
忘れも出来ないこの、味。


「ふふふ、おいしそうに食べるね」


「…う、るさいっ。お前なんて、出てくるなよっ!」


返り血が、着物に顔に付着する。
そんなのは、もうどうでも良かった。


「大丈夫、すぐ戻るよ。君の元にね」


目の前にいた人物は、ふわりと消えた。


「っ、お前が出ると、『紫原家』と『黒子家』が反応するだろっ!!」


また、あの笑いが聞こえた気がした。