櫻籠り哀歌

甘い言葉に絆されて

『ねえ、テツヤ』


『なんですか、名前』


それは、桜が散っている季節。
松奏院家の庭にある池の鯉を一緒に見ていた。


『君には、謝らなくてはいけないね』


『…?どうしてですか』


名前がどうしてそんなことを言うのかが分からなかった。


『だって、まだ紫原家はいいけど、黒子家は…』


『その話でしたか。いいんですよ、名前のせいではないんですから』


そう、名前のせいではない。
僕の黒子家が松奏院家に忠誠を誓ったのは、大昔の話だ。


『でも、黒子家は酷なことだよ。君達の『自由』を奪ってしまったんだからね』


『そんなこと思っていませんよ。僕らはあなたたちに仕えることが至福なのですから』


そうだ。
それに僕は一番の幸せものだ。
だって、あなたに仕えられるのだから。


『…ありがと、テツヤ。君だけが特別だ』


その言葉がどれだけ嬉しかったか。
僕を『特別』だと言ってくれたあなたが微笑んでいたから。
だから僕は、一生をあなたに捧げることを決めた。


「…名前、」


目を開けると、嫌に現実に戻された。


「あ、黒ちん起きた?」


「!?!?紫原くん!?いつの間にそこに!?」


「え、んー30分前くらい?」


「はい!?」


…さすがは紫原くんだなと思います。
いつも通りのおっとりな感じ。


「…ねえ、黒ちんなら分かるでしょ?この、『感じ』」


「…ええ、まあ。なんか知ってるような『感じ』ですね」


昔に感じたことのある…


「きっと、『紫原家』と『黒子家』にしか分からないんだろうねー」


「…でしょうね。この感覚…」


この、禍々しい嫌な感覚。
昔にも、こんなことが…


『…初めまして、かな。黒子テツヤくん?』


ぞくり、寒気がした。


「っ、」


痛い、頭が割れるように痛い。
まるで、誰かに遮られているような。


冷や汗ばかり出る感覚に、また睡魔が襲ってきた。