櫻籠り哀歌

青は忘却の彼方に消えた

「んっ、」


「あ、目、覚ましたか?」


額の上に乗っている濡れタオルを取り、起き上がる。
そこは、私の部屋で、目の前には真がいた。


「…真?」


「そーだよ。あんま心配かけんじゃねえーよ」


「…ああ、鈴の音か」


「そうそ。たぶん、涼太あそこに行ったんじゃねーの?」


「!あそこに!?」


まさか。
涼太は、あそこに自ら行こうとはしない。
当たり前だ。
あそこは、負で出来ている。


「そうか、私が『あそこ』から出て3日だもんね」


そう、3日前には『あそこ』にいたのだ。


「ねえ、真」


「んだよ」


「今日ね、面白い人に逢ったの」


「面白い人?誰だよ」


「んーとね、青い髪の人と緑の髪の人」


青の人には、似合っている名字があった。


「は?」


「そのね、青の人のね、名字は…―――あれ?」


…思い、出せない。
確かに似合っている名字だったのに、分からない。


「名前?」


「…、どうしよう、真。思い出せない、あんなに知っていたのに…」


「名前…(ちゃんと、鈴の音の効果、発揮できてんじゃねーか)」


というか、もう青の人の顔も思い出せない。


「…もう寝ろよ、名前」


「…うん。でも、寝るまで手、握ってて」


そう言うと、真は嫌々そうながらも、優しく握ってくれた。
…真、ありがとう。
真がいるからここまでがんばれた。


「…真、大好き」


「っ!!!…あっそ」


そっぽを向いて耳まで赤くする真を傍らに私は、寝たのだった。


「……寝た、か?」


大好きとか、不意打ち過ぎるだろ。
俺は、こんなにもお前に焦がれているのに。


「大好きだ、愛してる。ずっと、ずっと…――」


ずっと前から、君だけを愛していた。