櫻籠り哀歌

折られた唯一の光

あの、夜の逢瀬から彼のことしか考えられなくなった。


「、名前」


「ん?ああ、涼太どうしたの?」


涼太に呼ばれてるなんて、分からなかった。
そんなにも考え事に集中してたかな。


「どうしたもこうしたも、俺が呼んでるのに気づかないってどういうことっスか?」


「ごめん、ごめん」


ぎゅうと繋いでいた手を握り締めると、涼太は機嫌を良くしたのか、嬉しそうに笑った。


「もう、名前。俺のこと無視しないで下さいっス!泣きたくなるっスよ!」


「ごめん、て。……あれ?」


「ん?―――…っ、お前っ」


目の前に、青と緑がいた。


「よう、名前。この前ぶりだな」


にこりと笑う青の人にため息をつく緑の人。


「…赤司にバレたらどうするのだよ」


「大丈夫だろ」


こそこそと二人で話す彼ら。
私の隣の涼太は、機嫌を悪くしていた。


「…どういうつもりっスか。また俺らの前に現れて」


「ん?それは、あれだ。名前を取り戻すためだ」


「!!」


青の人が私を真っ直ぐ見て言う。
私は、居たたまれなくなって視線を外した。


「…はっ。寝言は寝てから言ってくださいっス。『今回』は、『前回』のようにはいかないっスよ。絶対、お前らを思い出すことはない」


「…どういう意味なのだ、黄瀬」


「はははははは、俺の名字は『黄瀬』じゃなくて『松奏院』っス。間違えないで欲しいっスね」


「…黄瀬、お前をこの場で殺してもいいんだぞ?」


「青峰っちは、相変わらずっスね」


…ああ、あの青の人は青峰と言うのか。
似合っている名字だ。


「あなた、青峰、さんと言うのですね」


「名前!?」


涼太から焦りの声が聞こえた。


「…いい名字です。あなたによく似合う名字ですね」


「っ、名前っ…」


青峰さんが照れたように、それでも悲しそうに私の名前を呼んだ。
それが、ひどく嬉しく思えた。
そのときだった。


―――チリン…


「っ、うっあっ、」


どこからか、鈴の音が聞こえた。
その瞬間、頭に身体に、強い痛みが生じる。


「っ、名前!?大丈夫っスか!?」


「おい、名前、どうしたんだ、」


青峰さんが心配そうに私に触れようとする。


―――チリン…


また、鳴った。


パシンッ、


「私に、っ触れるなっ」


それは、確かな拒絶だった。