「おはようございます」
目が覚めて、縁側へ出るとあの日会った、空色の髪の人がいた。
え、なんでここにいるの。
「っ、ここの敷地には、結界が張ってあるんですけど…」
「ええ、そのようですね。ですけど僕には効かなかったようです」
「っ、なんで」
「それよりも、まだこの時間は、月や星が綺麗ですね。一緒に見ませんか?」
彼は、私の隣へと歩み、縁側に座った。
…確かに今はまだ、三時過ぎだ。
「……この家の人以外で着物を着てる人は初めて見ました」
「そのようですね。僕らはこの格好が当たり前なので」
私も隣に座り、夜空を眺める。
知らない人なのに何故か隣が安心する。
「…あなたは、誰なのですか?」
夜空を見上げていた水色の瞳が私を捉える。
その瞳は、熱と哀しさを孕んでいた。
「…それは、言いません。名前が思い出してください。思い出して自分から僕の元に来てください」
「…思い、出す…?」
「ええ。名前が本来いるべき場所はここではありません」
首に下げている群青の珠が光った気がした。
よく見ると彼の刀に黒の珠がついている。
ああ、なんか懐かしい。
「名前、待ってます。あなたのことをずっと。いつまでも」
彼は、立ち上がりふわりと私を抱きしめた。
その優しい抱き心地に涙が出そうになった。
「僕は名前を愛してます」
耳元で呟かれる。
熱のこもった吐息に顔が赤くなるのがわかった。
「愛してる愛してる愛してる愛してる。あなたを閉じ込めたいくらいに」
彼は、そう言って哀しそうに笑った。
「さあ、もうおやすみの時間です。寝てください」
私は、彼に催眠をかけらたように自然と自分の部屋へと戻って行った。
「っ、名前」
彼の手が爪で血が出るほど握り締められてるのにも気づかなかった。