櫻籠り哀歌

濃い血が消えない

「…涼太?」


真の話を聞いた涼太は、驚くほどに無表情だった。


「あれ?涼太、帰ってきてたの?おかえり」


「あ、辰也っち!ただいまっス!」


廊下から辰也くんが現れた。


「…それで、彼らに会ったんだってね」


「そうっス…性懲りもなくこの時代まで追いかけてきたっスね」


ぎゅう、と涼太に後ろから抱きつかれた。
涼太?
どうしたの。


「…名前は、俺のなのに。絶対あいつらには渡さない」


「涼太…?」


「名前、俺ら結ばれるべき存在だもんね」


また、その話。
私たち松奏院家は、近親婚だ。
私は、涼太か辰也くんと結婚するのだ。
でもきっと双子の涼太。
双子同士の子のほうが濃い血を持っていると言われている。


「…そう、だね」


「気持ち悪い?」


そう聞いたのは、辰也くんだった。


「気持ち悪くないよ。気持ち悪いって言ったら、私たちを否定してしまうことになる」


それが、当たり前だと思って生活してきた。


「…そうだ、な」


辰也くんが優しく頭を撫でてくる。
抱きしめてる涼太は、さっきよりも強く抱きしめた。


「名前」


「涼太、好き。大好き」


「俺も、好き」


家族に対して持ってはいけない感情だと分かってる。


「ん、」


首筋にかかる髪がくすぐったかった。


私は、このとき辰也くんがどんな表情をしてるかなんてわからなかった。