ハッピーバレンタイン

しおりを挿む



「あ……中身が出てしまいましたね」


 俺に投げられた鞄を見守っていた怜兄がポツリと呟いて、おもむろに踵を返す。

 暢気にぼんやりと立ち尽くしていた俺は、慌てて怜兄の肩を掴んだ。


「ちょ、怜兄! 待って!」

「大丈夫です、和真くん。僕に任せてください」


 小さく首を傾げてにっこりと微笑んだ怜兄は、持っていたほうきを俺に押し付けて落ちた荷物に駆け寄る。

 そして、よりによって真っ先にスーパーの白い袋を拾い上げた。

 こっちに背中を向けているから表情はわからないけど……きっと中身は見えているだろう。

 手当たり次第に買ってきた、どう見てもバレンタインチョコの材料って中身が。


「これ、もしかして……」


 怜兄は袋を持ったままポツリと呟いて、パッと俺を振り返った。

 どうしよう。

 とりあえず、怜兄に渡すってことだけはバレないようにしないと。


「あ、あの、怜兄。それは」

「逆チョコですか?」

「へっ?」

「女の子に、手作りチョコをあげるんですか?」


 逆チョコ。

 女の子に手作りチョコ……。

 …………それだ!


「そ、そう! 実はそうなんだっ」


 俺は高速で何度も頷いて、怜兄の手にあるスーパーの袋を取り戻しに向かった。

 ひとまずごまかすことはできたけど、好きな女なんて存在しないから何か訊かれでもしたら困る。




- 3/36 -

[≪prev | next≫]



 ←Series Top





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -