理想的なカップルの裏事情 ■しおりを挿む
飲んだらあっちの長谷川のファンに殺されそうだ。
受け取っただけでも、凄まじい殺気だし。
「悠貴の飲みかけなんか嫌だよな? こっちを飲んでもいいぜ」
藤枝までもが俺にペットボトルを手渡してきた。
しかも、これも飲みかけだ。
で、受け取ってしまうアホな俺。
こっちを飲んだらそっちの藤枝親衛隊に殺されそうだ。
左右の手にあるペットボトル。
その先にいる、俺を見つめるご本人たち。
そしてさらにその先にいる彼らの取り巻きが、俺に殺人光線を発したような気がした。
ダメだ!どうする、俺!?
「…あ、両手に持ってちゃ蓋が開けられないじゃんね」
「それもそうだな。ぼーっとしてて可愛いな、こいつ」
藤枝にも可愛いとか言われてしまった。
可愛いのは君の恋人だろう…。
二人が、俺の手にある自分のペットボトルの蓋を開けた。
「…………………」
開けてもらって悪いんだけれど、飲むわけにはいかない。
「ねぇ…早く飲まないと、口移しするよ?」
「!?」
「おい悠貴、勝手なことすんなよ。こいつに最初に声を掛けたのはオレだ」
「は? 葵こそなんなのさ。僕が先にこの子に飲み物をあげたんだけど」
「なんだと?」
「文句あんの?」
「─────!?」
なにこのカップル!
とにかく危険を感じた俺は、二人にペットボトルをそれぞれ押し付けるように返して、来た道を全速力で引き返した。
すみません部長!俺には無理でした!
俺は心の中で、何度も部長に詫びた。
とは言っても、また突撃するつもりだ。
絶対にインタビューに成功して、立派な記事を仕上げてやる!
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