理想的なカップルの裏事情 ■しおりを挿む
うん、コネはいい作戦かもしれない。
「やっぱ名前じゃないから反応しねぇな」
「この僕の呼び掛けを無視するなんて、ますますかわいー」
将を射んと欲すればまず馬を射よって言うし、先に鉄壁を崩すところから…。
「っぶ!」
考え事をしながら歩いていた俺は、人にぶつかって我に返った。
強打した鼻の頭が痛い。
「いてて…ご、ごめん」
鼻血が出やすい体質じゃなくてよかった…と思いながら見上げたら、ぶつかった相手はなんと藤枝だった。
「ふ、ふ…藤枝っ?」
「やっとオレを見たな」
藤枝はニヒルに笑って、俺の顎を掬うように捕えた。
「こらっ」
が、横から飛んできたチョップがその腕を叩き落とした。
「は、長谷川!?」
チョップの主らしい長谷川は、俺に一度笑いかけてから藤枝を睨み付けた。
俺の方にはあんまりダメージがなかったけれど、藤枝にはかなり痛いチョップだったらしい。
藤枝が腕を押さえながら加害者である長谷川を睨むと、またいつかのような図が出来上がった。
これは…また俺が原因(?)でカップルがケンカを始めた雰囲気だ。
「あの」
チャンスなのに、とてもインタビューを申し込める空気じゃない。
というか、声を掛けたのに無視されたし。
しょうがない、しばらく待つか。
「あっ!そうだ」
藤枝と睨み合っていた長谷川が、突然声を上げて俺に視線を移した。
その顔は、通りすがる生徒が嘆息するぐらいに眩しい笑顔だ。
さっきまで自分の恋人を睨み付けていた名残は微塵もない。
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