理想的なカップルの裏事情

しおりを挿む


 うん、コネはいい作戦かもしれない。


「やっぱ名前じゃないから反応しねぇな」

「この僕の呼び掛けを無視するなんて、ますますかわいー」


 将を射んと欲すればまず馬を射よって言うし、先に鉄壁を崩すところから…。


「っぶ!」


 考え事をしながら歩いていた俺は、人にぶつかって我に返った。

 強打した鼻の頭が痛い。


「いてて…ご、ごめん」


 鼻血が出やすい体質じゃなくてよかった…と思いながら見上げたら、ぶつかった相手はなんと藤枝だった。


「ふ、ふ…藤枝っ?」

「やっとオレを見たな」


 藤枝はニヒルに笑って、俺の顎を掬うように捕えた。


「こらっ」


 が、横から飛んできたチョップがその腕を叩き落とした。


「は、長谷川!?」


 チョップの主らしい長谷川は、俺に一度笑いかけてから藤枝を睨み付けた。

 俺の方にはあんまりダメージがなかったけれど、藤枝にはかなり痛いチョップだったらしい。

 藤枝が腕を押さえながら加害者である長谷川を睨むと、またいつかのような図が出来上がった。

 これは…また俺が原因(?)でカップルがケンカを始めた雰囲気だ。


「あの」


 チャンスなのに、とてもインタビューを申し込める空気じゃない。

 というか、声を掛けたのに無視されたし。

 しょうがない、しばらく待つか。


「あっ!そうだ」


 藤枝と睨み合っていた長谷川が、突然声を上げて俺に視線を移した。

 その顔は、通りすがる生徒が嘆息するぐらいに眩しい笑顔だ。

 さっきまで自分の恋人を睨み付けていた名残は微塵もない。




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