TRUST ■しおりを挿む
大型犬とオレ(side 朝陽)
□人間はペットじゃありません
「ちょっと待って、あれは誤解なの」
「うるせぇ、もう別れるっつってんじゃん」
「あたしはアキラが好きなの、あいつはただ、しつこくて…っ」
うっせー、痴話喧嘩なら余所でやれよ。オレの貴重な睡眠時間を奪いやがって。
「触んなよ、俺にも好きな子いるからちょうどいいんだよ!」
「は!? どうせでたらめでしょ? アキラは浮気できない男じゃん」
イライライライラ。
だんだん近付いてくる言い争いに、オレの睡魔が帰り支度を始める。
「浮気はな。けど、これは本気だし」
「ふ、ふざけないでよ、浮気より質悪い!」
「あっ、ちょうどよかった。探したんだぜ」
サクサクと芝生を踏む音が近付いてきたと思ったら、ぐいっと強引に身体を起こされた。
「ほら、超可愛いんだこいつ。俺の本命」
「………なにそれ」
「だから、俺の本命。マジ惚れてる」
「…バカにしないで!このホ○野郎!!」
甚大な被害を受けた鼓膜が、キーンと悲鳴を上げる。
ふっ、とオレを拘束していた逞しい腕の力が弛んだ。
「あ…お、男?」
「オレ、女に見える?」
「いえ…見えません」
さっきまで威勢良く女と口論していた男は、芝生に額を擦り付けて土下座した。
「すみません!何でもするので許してください!」
「よし、名は何と申す」
「須磨彰と申します」
「オレは山田朝陽だ、オレに仕えることを許してやろう」
「はっ!ありがたき幸せ。…ときに、山田さんのがくッ」
鳩尾に蹴り。けっこー硬いな、細マッチョだ細マッチョ。
「朝陽と呼べ。オレは理工学部二回生だ」
「は、朝陽様…」
こうしてオレは、ペットを一匹手に入れた。
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