週刊『彰と朝陽』 ■しおりを挿む
格安ランチセット─朝陽
講義の間、ずっと松阪牛のことを考えてるオレ。
松阪牛って、学食のランチセット何日分の値段がするんだろ。
魔王はすげーな、医者はすげーな。
オレ、魔王のことちょっと見直した。
「朝陽、講義終わったぞ」
「あ…ホントだ。サンキュ」
「次は…ってか、来てる」
「ん?」
「経済のスズキセンパイ」
「スズキって誰だ」
「あの人」
ダチが指差す方向を見たら、小型犬が女に囲まれてた。
あぁ、スズキって小型犬のことか。
最近彰にも聞いたのに、また忘れてた。
オレって、どーでもいいことはすぐに忘れるんだよな。
「…で、次はなに?」
「次は休講らしい。って、いいのか?」
「なにが?」
「スズキセンパイ」
「意味わかんね」
「朝陽に会いに来たんじゃないの」
「ちげーだろ。次がないなら、オレは昼寝してくる」
「おう、またな」
オレは席を立ってダチと別れた。
ここを出て芝生のとこに行くには、あの人だかりの横を通るのが早い。
けど、あの場合は急がば回れだな。
「朝陽!」
廊下を歩いてたら呼び止められた。
うぜー、今のオレは昼寝モードなんだ。
振り返ったら小型犬だったから無視して突き進んでたら、後ろから肩を掴まれた。
「あ、朝陽…待って」
「なんだ」
「話をしよう」
「オレはお前と話すことなんかねーよ」
「僕はある!朝陽のこと、好きなんだ!」
「なっ…!」
知らなかったとかじゃねーけど。
こんなとこで叫ばれたらビビるじゃん、普通に!
「好きだ、好きなんだ!愛し」
「うるせー黙れ!とりあえず付いてこい!」
「朝陽…!」
うぜー、勘違いすんな。
あんなとこで男が男に告白とか、シャレになんねーんだよ。
魔王に口説かれる方がマシじゃねーか。
「スズキだっけ、お前」
「マサオミだよ」
「なんでもいー。お前あのまま女に囲まれてればよかったのに」
「僕は朝陽に会いに来たんだ…」
「どーでもいいし」
「ひどい…でも好きだ」
「きめぇ。前はそんなじゃなかったのによ」
「タツヤが相手だから諦めてただけ。でも、須磨なんて」
「タツヤのなにが良くて、彰のなにがダメなんだ」
「須磨が悪いわけじゃないけど、朝陽は須磨なんかありえないって言ってたから」
「あー…そう言ったこともあったな」
「ところで、どこに向かってるの?」
「学食。なんか食わせて。格安ランチセット以外で」
「いいよ!朝陽のためならなんでも奢る」
「え、松阪牛でも?」
「うん。朝陽のためなら一頭まるごと買い付ける」
なにこいつ、虚言癖でもあるわけ?
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