週刊『彰と朝陽』 ■しおりを挿む
ドアが閉まります─彰
今日は同じ時間から講義があるから、朝陽さんと一緒に家を出た。
込み合う電車の中、朝陽さんを押し込んで踏ん張る。
早く閉めてくれ…結構辛いんだけど。
「もう少し詰めてください」
「っう、ぐ」
駅員にお尻を押されて、背後すれすれでドアが閉まった。
「あ、朝陽さん…」
「ん…なんだ」
「苦しくない?」
「へーき」
「そか」
朝陽さんを周りからガードするように抱き締めつつ、その場で回転して朝陽さんをドアの方へ持っていく。
「苦しそーだな」
「うん、ちょっとね」
「もっと詰めてもいいぞ」
朝陽さんは携帯を弄りながら、俺のトートを引っ張った。
満員電車はうぜぇけど、朝陽さんと密着できるから好きだ。
家で密着すんのと、外で密着すんのは実は全然違う。
普通はできないのにできてしまう。
これが微妙な男心を突くわけ。
ほら、満員電車で恥ずかしがり屋の彼氏が、しゃーねーな!とか言いながら引き寄せてくれね?
あれだよ、あれ。
「…で、朝陽さんはなにしてんの」
「レーズンパンの解凍方法を調べてんだ」
朝陽さんが俺の腕の中に納まったまま、上目遣いで見上げてきた。
やべぇ、このアングル。
「冷凍すんの?」
「飽きたんだ…」
「え、初耳」
「今日、とうとうイライラしながら食った」
「もう…早く言ってよ。違うメニューにすんのに」
「だって、カビたらもったいねーから…」
「朝陽さん…」
「なんだ」
「俺が食えないからだね。ごめん」
「いーんだ。食えないなら無理しなくて」
「明日の朝は朝陽さんの好きなの作るから」
「ん」
なにがいいかな。
トーストもいいけど、いっそ朝から米を炊くか。
つか大翔は許せねーな。
朝陽さんをこんなに困らせやがって。
たしか来週、診察があったな…。
「朝陽さん、来週の診察の後、大翔になんか奢らせるから」
「えっ?」
「松阪牛でもいいよ」
「マジか…!いーのか!?」
「あいつ、金ならあるっつってたじゃん。朝陽さんが食いたいなら尚更オッケーでしょ」
「すげー!うれしーな」
あー、かわいーな朝陽さんは。
俺も金持ちになれるようにがんばろ。
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