TRUST ■しおりを挿む
大型犬とオレ(side 朝陽)
□朝の光景
朝陽って名前の通り、オレは朝の太陽が好きだ。
どんなに遅く帰ってきたって、最低八時には目ぇ覚まして太陽浴びないと一日が始まらない。
今日も例に漏れず、きっちり起きて伸びをする。
タツヤはやっぱり帰って来なかった。オレだってタツヤ以外と寝るから文句は言えねーんだけど、帰巣本能が働くだけまだマシだよな。
ぼーっとしながらもそもそと着替え始める。
と、今日もぴったり八時半に玄関ベルが鳴った。
上半身裸のまま出たら、手に鞄とコンビニの袋下げた彰が立ってた。
「おす、ちょい上がって待ってて」
「おはよう朝陽さん。寝起き?」
「ん、そうでもない」
オレの可愛い大型犬は、勝手知ったるとばかりにコーヒーの準備を始める。
「朝陽さん、サンドイッチ買ってきたから食べてよ」
「えー」
「食わないとまた痩せちゃうよ」
「んじゃ、食わせて」
ふざけて、あーんってやると、一口サイズのサンドイッチが入ってきた。
「おいし?」
「うん、美味ぇ」
「よかった」
何この手作り弁当作ってきた彼女みたいな反応。
笑顔は大型犬そのものだけど。
ニコニコと嬉しそうに笑うから、釣られてサンドイッチを食べた。
オレが苦手なきゅうり入ったやつだけは彰が食ってた。
「ごち」
「うん。朝陽さん今日は三限からでしょ。もーいく?」
「芝生んとこで寝る。暇なら膝枕」
「喜んで」
彰が鞄持ってくれたから、オレは適当に服着て手ぶらで家を出た。
ポケットのケータイがチカチカ光ってた。ちょっと期待して開けてみたらタツヤじゃなくて昨日の小型犬。
またしようね、って。都合のいい男にされてんのに満足なのかね。
電車乗って大学行く。ちょっと混んでたけど彰が壁になった。暇だから腹筋殴ってやったらノーダメージ。
「朝陽さーん、ちょ、待って」
なんかムカついたから、電車降りたら彰置いて速歩き。大型犬は行き交う人に引っ掛かりながら追いかけてきた。
ちょっと気が晴れたから止まってやったら、大型犬が突撃してきた。
「あ…ごめ、朝陽さん。平気?」
細身なのにゴツい彰から、スポーツマンって感じの爽やかな香水の匂いがした。
でもこいつはサークルやってない。趣味で鍛えてるだけらしい。
「…許す」
「ありがと、愛してる」
「ふざけんなバカ」
嘘つき。愛されても困るけど。
彰は立ち止まったままのオレの手ぇ引いて歩き出した。どっちが主人だってふくらはぎ蹴って、オレが手ぇ引いて歩いた。
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