週刊『彰と朝陽』 ■しおりを挿む
セレブごっこ─彰
「彰!」
突然呼ばれて、うとうとしていた俺は文字通り飛び上がった。
上半身だけね。全身で飛び上がったら、膝の朝陽さんが転げ落ちちゃう。
「な、なに…朝陽さん」
梅雨の中休みの午後、大学の中にあるいつもの芝生の上、俺の膝枕。
眠っていたはずの朝陽さんが、目をカッと見開いて俺を見上げていた。
「オレ、セレブになりたいな」
「は…?」
「今、夢で見たんだ」
「どんな夢?」
「高そうな店でご飯食ってたんだけどさ」
「うんうん」
「ウェイターが食後に、いくらでもどーぞってケーキだらけのワゴン持ってきた」
「そりゃ幸せだったね」
ケーキだらけの幸せなら、今夜なんとか叶えてあげられるかな?
「それをなんと、オレは松阪牛のフィレステーキで満腹だからいらねって断ったんだ!」
「なんだって…?」
「オレ、死ぬまでに一回は、松阪牛で満腹になってみたい」
やべー、安易に叶えてあげるなんて言わなくてよかったよ。
「朝陽さん、宝くじとか当てないと」
「そうなんだよな…」
「まぁ、ごっこならできるけど」
「ごっこ?」
「今度大翔に診てもらう日あるじゃん。松阪牛はないけど、実家の冷蔵庫からなんかいいものを失敬しよ」
「いいのか!?」
「うん、朝陽さんのためなら」
「うれしー」
「俺も、朝陽さんが喜んでくれてうれしー」
松阪牛はなくても、牛の肉ならあるだろ。
咄嗟の思い付きだけど、朝陽さんが喜んでくれてよかった。
あとは大翔…クソ魔王を倒すだけだな。
気を引き締めていかねーと。
あいつは朝陽さんを狙ってるから。
「診察室には一緒に入るから」
「そーだな。魔王にまた舐められんの嫌だ」
「ごめんね、あんな変態魔王だとは思わなかった」
「彰よりやべーよな」
「俺は変態じゃねぇ」
「いや、充分変態だ」
「む…」
未だにあのメモを大事にしてるのがバレてんのかな。
でも、あれはマジで貴重なお宝だし。
あ、実家帰ったらついでにラミネートしとくか。
「今変態なこと考えてんだろ」
「いてっ!ひでぇよ朝陽さん」
朝陽さんにデコピンされた。
わりと痛い。
けど、あのメモは譲れねーから!
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