週刊『彰と朝陽』 ■しおりを挿む
はちみつトースト─彰
そうそう、スズキマサオミ。
こないだ大学で、いきなり俺の前に立ちはだかってきた奴。
まだなんもしてねぇのに、初っぱなから怯えてんの。
「だれ、あんた」
「お、お前須磨だよな。須磨彰」
「名乗れって」
「スズキ、マサオミ」
「あっそ。で、なに」
無愛想でごめん。
朝陽さんかダチが一緒にいないとこうなんだ、俺。
睨み付けたら一層震えるスズキマサオミ。
「…っ!」
「うざ。ビビんなら来んなよ」
「あ、朝陽と別れろ」
「あ? もっかい言ってくんね?」
「朝陽を返せ」
「あぁん?」
「あっ、朝陽は、僕の…だから」
「てめー、殴られたいわけ?」
「ひぃっ…」
「朝陽は俺のなんだけど」
「…僕、あ、あきらめ…ないから」
それを捨て台詞にして逃げてったスズキマサオミに、当時はただムカついただけだったけど。
元セフレって朝陽さんの口から聞いたとき、マジで殴っときゃよかったと思った。
朝陽さんのあんな姿とかこんな姿を見たってことだし…。
俺の朝陽さんが…。
俺の朝陽さんなのに…。
うぅ…泣きそう。
とか思ってたら、朝陽さんが泣きながら謝りだした。
俺に嫌われたくなくて泣くとか…ショック受けてる場合じゃねーよな。
しかも朝陽さんから大好きって言われたから、モヤモヤなんか完全にぶっ飛んだ。
愛してるって言い返したら、朝陽さんは余計に泣きながらしがみついてきた。
そんな朝陽さんの背中を撫でてたら、なんでも許せる気になってきた。
あ、スズキマサオミは許さねーよ?
とにかく朝陽さんを諦めさせないと安心できねぇし。
「彰」
「なーに、朝陽さん」
「お腹すいた」
「うん、なに食べたい?」
「はちみつトースト」
「え…家庭用でいい?」
「おっきいやつが、いーな」
「お店のやつ?」
「うん、アイス乗っけてほしーな?」
出た、これマジ最強。
例の上目遣いのおねだり朝陽さん、泣き止んだ直後バージョン。
目元と鼻がちょっと赤くなってて、涙で濡れた上目遣いとか逆らえねーよ。
睫毛に小さな涙の粒とか付いてんだぜ?
「切れてないパン、買ってこないと」
「ん、いってらっしゃい」
「…いってきます」
これ、別に俺がヘタレなわけじゃねーよ?
朝陽さんの笑顔のためだし…。
パン屋、すぐ近くにあるし…。
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