週刊『彰と朝陽』 ■しおりを挿む
泣いてもいいよ─彰
俺はどうしても嫌な予感を拭えずに、朝陽さんが診察室に消えてから数分で行動を起こした。
「診察中です」
うぜぇ、魔王の手先に止められた。
「診察中の患者のツレなんで」
「ですが…」
「あぁっ…、やだっ!」
中から聞こえた朝陽さんの悲鳴に、俺はなり振り構わず手先を押し退けた。
「大翔!」
俺の目に飛び込んできたのは、丸椅子に座る朝陽さんに顔を近付けて左耳を攻める大翔だった。
診察室のドアが外れかけたけど、朝陽さんには代えられねぇ。
「あ、彰っ」
「朝陽さん!」
「まっ、待て、魔王が!」
「俺の朝陽さんに手ェ出しやがって…ぶっ殺してやる!」
「違う!待て彰!」
「あ? なんでこいつ庇うわけ」
「庇ってねーよ!落ち着けバカッ」
ゴスッと鈍い音と共に、脳がグラッと揺れた。
あー…、朝陽さんってば、石頭。
「うぅ…ひでぇよ朝陽さん」
「いつもの彰になったな」
「頭突き、すっげー痛ぇよ?」
「よしよし、泣いてもいいぞ」
「抱き締めてもいい?」
「…帰ったら、オレから抱きついてやらなくもねー」
「うん、大好き朝陽さん」
「ん」
朝陽さんは耳まで赤くなってる。
可愛い耳…そうだ、耳だ。
「大翔!てめー、朝陽さんの耳舐めただろ!てか朝陽さんから離れろ、クソがっ」
「……………」
「チッ、だんまりかよ。やっぱ殴ってやる」
「待て彰。オレが魔王をやっつけたんだ」
「…やっつけた?」
「急所蹴ってやった」
「マジで?」
「ん、やりすぎたかもしれね」
朝陽さんにしがみついたまま微動だにしない大翔に、ちょっとだけ同情してしまった。
「とりあえず剥がす」
「う、動かしても平気か…?」
「大丈夫だよ、朝陽さん。そこら辺に転がしておけば、手先が回収するだろ」
「ここは病院だしな」
大翔を処置台に放置して受付に声を掛けてさっさと外に出たら、もう辺りは暗かった。
「朝陽さん、帰ったら宴だ」
「おう」
「朝陽さんの活躍で、魔王が倒れました」
「すげーだろ」
「帰ったら消毒ね」
「ん…わかった」
先週決めたメニューで勝利の宴をした後、朝陽さんを念入りに消毒してあげた。
そしたら、大翔に舐められて力が抜けたのを俺のせいにされた。
たぶん、それが今日の朝陽さんのデレ。
魔王も無事に倒してきたし、とりあえずめでたしめでたしってことで。
-END-
←Series Top
|