週刊『彰と朝陽』

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泣いてもいいよ─彰


 俺はどうしても嫌な予感を拭えずに、朝陽さんが診察室に消えてから数分で行動を起こした。


「診察中です」


 うぜぇ、魔王の手先に止められた。


「診察中の患者のツレなんで」

「ですが…」

「あぁっ…、やだっ!」


 中から聞こえた朝陽さんの悲鳴に、俺はなり振り構わず手先を押し退けた。


「大翔!」


 俺の目に飛び込んできたのは、丸椅子に座る朝陽さんに顔を近付けて左耳を攻める大翔だった。

 診察室のドアが外れかけたけど、朝陽さんには代えられねぇ。


「あ、彰っ」

「朝陽さん!」

「まっ、待て、魔王が!」

「俺の朝陽さんに手ェ出しやがって…ぶっ殺してやる!」

「違う!待て彰!」

「あ? なんでこいつ庇うわけ」

「庇ってねーよ!落ち着けバカッ」


 ゴスッと鈍い音と共に、脳がグラッと揺れた。

 あー…、朝陽さんってば、石頭。


「うぅ…ひでぇよ朝陽さん」

「いつもの彰になったな」

「頭突き、すっげー痛ぇよ?」

「よしよし、泣いてもいいぞ」

「抱き締めてもいい?」

「…帰ったら、オレから抱きついてやらなくもねー」

「うん、大好き朝陽さん」

「ん」


 朝陽さんは耳まで赤くなってる。

 可愛い耳…そうだ、耳だ。


「大翔!てめー、朝陽さんの耳舐めただろ!てか朝陽さんから離れろ、クソがっ」

「……………」

「チッ、だんまりかよ。やっぱ殴ってやる」

「待て彰。オレが魔王をやっつけたんだ」

「…やっつけた?」

「急所蹴ってやった」

「マジで?」

「ん、やりすぎたかもしれね」


 朝陽さんにしがみついたまま微動だにしない大翔に、ちょっとだけ同情してしまった。


「とりあえず剥がす」

「う、動かしても平気か…?」

「大丈夫だよ、朝陽さん。そこら辺に転がしておけば、手先が回収するだろ」

「ここは病院だしな」


 大翔を処置台に放置して受付に声を掛けてさっさと外に出たら、もう辺りは暗かった。


「朝陽さん、帰ったら宴だ」

「おう」

「朝陽さんの活躍で、魔王が倒れました」

「すげーだろ」

「帰ったら消毒ね」

「ん…わかった」


 先週決めたメニューで勝利の宴をした後、朝陽さんを念入りに消毒してあげた。

 そしたら、大翔に舐められて力が抜けたのを俺のせいにされた。

 たぶん、それが今日の朝陽さんのデレ。

 魔王も無事に倒してきたし、とりあえずめでたしめでたしってことで。


 -END-



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