週刊『彰と朝陽』 ■しおりを挿む
気にしないで─彰
勇者という名の姫・朝陽さんを残して先陣を切る俺。
俺だって怖くないわけじゃねーよ。
「おっす魔王」
「魔王ってなんだ」
「あ、気にしないで」
丸椅子に座ったら、医者らしくカルテに挟まった問診票を眺める大翔。
「お前なら適当でいいか」
「丁寧にやれよ…」
「細かいことを気にしてたら、アサヒさんに嫌われるぞ」
「あっ!それだ、なんで大翔が朝陽さんの名前を知ってるんだ」
「寝言」
「は?」
「『アサヒさん…キスしたい…』って」
「マジかよ!」
「お兄様は嘘を吐きません」
なんて寝言だよ!
ごまかしようがないじゃん。
「はぁ…」
「本気のようで何より。お前は今まで女に不誠実だったからな」
「大翔には言われたくないな」
「俺は大人だから。それより今の自分の心配をしろよ」
朝陽さんが女じゃなくてよかったかもしれない。
こいつなら確実に喰う。
「って、マジでそれでやんの?」
出てきた物は、普通にそこらで売ってそうなピアッサー。
バネでバチン!とやる、あれ。
「これが一番やりやすいんだって。で、お前本当に片方でいいわけ?」
「今んとこ、片方しか付ける予定ないし」
「左と右、どっちがいいんだ?」
「普通はどっちなわけ?」
「…左かな」
「じゃ、そっちで」
左側の耳たぶに、アルコール綿が触れた。
独特の臭いとヒヤリとした感覚。
やべ、すげぇ緊張してきたんだけど。
でも朝陽さんが待ってるから耐えるしかねー!
───バチンッ!
「いくぞ」
「大翔!今逆だったろ、先に言えよ!」
「でも痛くなかっただろ?」
「…なんかビリビリする」
「しばらくしたら落ち着く。毎日欠かさず消毒しろよー」
え、終わり?
俺は大翔にひらひらと手を振られて、呆然と立ち尽くした。
「次は彰の友達だよな。山田…朝陽?」
「あ」
「へぇ…」
「おい大翔」
「お前の処置は終わりました。…出ていけ、彰」
すげぇ嫌な予感がする。
でも出ていくしかない俺。
マジでヘタレ遊び人じゃん!
「彰!無事だったか」
戻った俺に、朝陽さんが駆け寄ってきた。
俺の姫様。
「うん、朝陽さん…」
「おい、どーしたよ」
「俺のことは気にしないで。とにかく抱き締めさせて…」
「な、なに言ってんだ、バカッ」
朝陽さんに殴られた。耳よりこっちのが痛いや。
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