週刊『彰と朝陽』 ■しおりを挿む
静かにしなさい─彰
「朝陽さんっ、そっちじゃないよ」
ギクシャクと先頭に立った朝陽さんは、小児緊急外来の入り口へ向かった。
慌てて軌道修正してやる。
「うるせー!わ、わかってたんだからな!」
「はいはい、ほら靴脱ごうね」
片足ずつ持ち上げて靴を脱がせてやる。
なんて面倒見いいんだろう、俺。
「こ、子供扱いするんじゃねー!」
「朝陽さん、声でかいよ」
「あっ…すまね」
「それ履いたら、あっちの長椅子に座って待ってて」
「ん」
朝陽さんが素直に長椅子に向かうのを見届けて、受付を済ませる。
「あら彰くん、あの子が“アサヒさん”なの?」
「え、なんで知ってんの!?」
昔から受付やってるベテラン事務員のおばさんが、俺が書いた“ヤマダアサヒ”に反応した。
「大翔(やまと)先生が言ってたのよ、彰くんの新しい彼女の名前って。でも男の子だから違ったわね」
「ちょ、それマジ!?」
なんで大翔が朝陽さんを知ってるんだ!
大翔っていうのは下の兄貴で、今日世話になる方の兄貴で…。
とにかく、俺は大翔に朝陽さんの話なんかしてねー!
今日のこと頼んだ時も、朝陽さんの名前は出してねぇ。
「でないと私が知るはずないじゃない。それじゃ、問診票を書いてまた持ってきてね」
「確かに…」
俺は二人分の問診票を持って、長椅子の朝陽さんの所へ向かった。
朝陽さんは、何故か子供たちと一緒に看護師からお説教を受けていた。
「朝陽さん、なにやってんの」
声を掛けたら、親元へ帰っていく子供たちに手を振っていた朝陽さんが振り向いた。
「おう、ヘタレ遊び人」
「やだよ、そんな称号」
「彰が遅いから、魔王の手先に静かにしろって怒られた」
「あ…守ってやれなくてごめん」
「いーよ、なんとか退けたし…」
「てか魔王ってまさか…うちの兄貴?」
「黙っててごめんな…」
「俺、朝陽さんのために魔王戦、先陣切るから!」
魔王こと大翔に、朝陽さんのこと知ってる理由を訊かなきゃなんねーしさ。
「彰…!お前、かっけー!」
「惚れ直した?」
「そっ、そういうのは家で訊けよ!」
「よし、いつもの朝陽さんだ」
「どういう意味だ」
「怖がる朝陽さんは、借りてきた子猫みたいじゃん」
「なんだとッ」
「あはは、真っ赤だ。かわいー」
「黙れっ!こんなとこで言うんじゃねー!」
「やべ、魔王の手先がまた来たよ朝陽さん」
舞い戻ってきた魔王の手先に、MPごっそり持っていかれた。
俺は“くちぶえ”しかできねーから関係ないけど。
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