週刊『彰と朝陽』 ■しおりを挿む
覚悟はできている─朝陽
先週、ピアス開けに行くっつったけどさ、もう開いてます!ってわけにはいかねーの?
あ、いかねーんだ。
オレが魔王に果敢に立ち向かう姿を見たいんだな。
そしたらイチャついたりする暇なんか、ねーよ?
「朝陽さん、朝陽さーん? 次で降りるよ」
「っ、彰…いきなり声掛けんじゃねーよ」
「さっきから呼んでたのに」
「オレは魔王との決戦に向けて、精神統一に忙しいんだ」
「え、あの手帳をさらった魔王?」
「記憶力いいな、彰は」
「そりゃ、朝陽さんとの想い出だし」
「そうか…お前には、辛い戦いを強いることになるかもしれねーな」
「もしかして、運命のイタズラ起こっちゃった?」
「あぁ…でもお前が、頼りなんだ」
「朝陽さんのためなら、どんな運命でも乗り越えてみせる。呪文は任せといて」
「呪文って、お前は“くちぶえ”しかできねーじゃん」
「え、俺まだ遊び人!?」
「お前がレベル上げサボるから悪いんだろ」
「マジかよー…」
「ま、遊び人でも盾にはなるからな。戦いの方はオレに任せろ」
「かっけー。勇者様愛してる」
「……おう」
ドキッとすんじゃねーか、彰のバカ。
ちょうど電車が止まったから、オレは赤い顔をごまかすようにさっさと降りた。
改札を抜けたら、目の前に“須磨クリニック”って書いてある看板があった。
「内科・小児科、皮膚科、眼科…」
なんかすげーな。
たぶんこれが彰の実家なんだろうな。
「朝陽さん、置いてくなんてひでぇよ」
放置してきた彰が追い付いてきた。
「お前は医者にならなくていいのか」
「兄貴が二人とも医者になったから、もういいんだ」
「末っ子なのかお前」
「そーだよ」
「見えねーな」
「よく言われる」
合流してからは彰の先導で歩いた。
雑魚に不意打ち攻撃を食らったら、遊び人をオトリにして逃げないといけないからな。
「朝陽さん、ここだよ」
そびえる小綺麗な建物。
「……………」
「ん? 行くよ朝陽さん」
「……………」
「あれ、緊張してる?」
「ってめ、これから魔王に挑もうってのに覚悟決めねーのか!」
「覚悟って…やっぱ怖い?」
「怖かねーよ!お前を待ってやってたんだ」
「そっか」
「オレは彰と違って、すでに覚悟はできてるしなっ」
ムカつく、彰のくせに余裕ぶりやがって。
オレは彰を放置して魔王城に突入した。
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