週刊『彰と朝陽』 ■しおりを挿む
悲しいのは、誰?─朝陽
「飽きた!」
オレは、もそもそとベッドから抜けて寝室を出た。
ダイニングの電気を付けて時計を見たら、深夜一時。
やっぱ彰がいねーと食わねーな、オレ。
確か最後に食ったのは丸一日は前だ。
面倒なんだよな…腹は減るんだけど。
「…なんもねーな」
彰が何だかんだと作り置いたり買い置いたりしてったけど、もう底は尽きた。
言い忘れてたけど、彰は法事があるんだって田舎に帰ってる。
もう五日も会ってない。
こんなに長く離れるのは初めてだ。
彰のこと考えてたらまた腹が切なくなったから、カップ麺でも作るか。
やかんに水を入れて火に掛けながら戸棚を漁って、数種の中からカレーうどんをチョイス。
お湯が沸くまで暇だな…ここは愛を確かめるとこだよな?
電話に出たら、彰はオレを愛してる。
ま、時間が時間だし出ねーだろうな。
「…………………」
『んー…朝陽さん…?』
「うわ」
『…どうしたの、朝陽さん』
「おま、なんで出るんだよ」
『朝陽さんが電話してきたから』
「バカ、ちげーよ!時間」
『俺が朝陽さんのラブコールを逃すと思うわけ?』
なんだよこいつ。
やべー、嬉しい。
『おーい』
「なっ、なんだ!」
『お湯が沸いた』
「あ!ま、待ってろよ」
ケータイ放り投げて、ピーピー鳴いてるやかんのお湯をカレーうどんにぶっかけた。
「彰!」
『何食うの? 朝陽さん、ちゃんとご飯食ってる?』
「カレーうどん。きの…一昨日が最後の晩餐だった」
『あー…非常食のか、それ』
「うん…」
『どうしたの、悲しくなっちゃった?』
「ち、ちげーよ」
『俺は悲しい。もう五日も朝陽さんに触ってない』
「ん、」
『明日…って今日か、朝イチで帰るわ』
「ちょ、いいのかよ」
『昨日で終わったから』
「そっか」
『うん』
「でもせっかく家族や親戚といるんだろ? …オレにはいつでも会える」
『ダメだよ、今の俺は朝陽さんに会いたくて会いたくて、すごく寂しいから』
何故か鼻の奥がツンとした。
慌ててカレーうどんのフタを開けて、少しすすった。
『朝陽さん…』
「な、なんだよっ」
『…ちゃんと、鼻かむんだよ』
「何言ってるんだ」
『鼻水』
「こ、これはカレーうどん食ってっから出てきたんだ!」
『うん。それ食ったら歯磨きして寝て。起きたらもう、俺がいるから』
「バ、バカ…!」
『はいはい。俺は早起きしなきゃいけないから、もう寝るね』
「ん…」
『おやすみ、朝陽さん』
「おやすみ」
電話を切ったらカレーうどんの湯気が目に染みたから、オレは少しだけ泣いた。
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