週刊『彰と朝陽』 ■しおりを挿む
いや、喜ぶと思って…─彰
帰ってきてすぐ冷蔵庫を開けた俺は、一瞬で勢いよくそれを閉めた。
なに今の!
鼻血出そうなんだけど。
今度はティッシュをスタンバイして、もう一度開けてみる。
やっぱり…!
『今日の夜ご飯はしょうが焼きよ(はぁと) 朝陽より』
ってメモが、昨夜はなかったボウルに貼ってある。
ボウルを冷蔵庫から取り出して、俺が買ってきたものを代わりに仕舞う。
ラップを取って匂いを確認すると、しょうが焼きの匂い。
しかもニンニクたっぷり仕様。
やべ、マジで朝陽さんいい嫁じゃん。
先に米炊いて、キャベツ切って…。
しょうが焼きに合う小鉢なんかも考えたりして、いそいそと晩飯作ってたら、朝陽さんが帰ってきた。
「朝陽さん!おかえり!」
「ただいまー。いい匂いする」
「うん、可愛い嫁が下ごしらえやってくれてたんだ」
「鼻血出たんじゃね?」
「やべ、なんでわかんの…」
「だってオレ、彰の嫁だしよ」
「最高の嫁だな、朝陽さんは」
「そうだろ。彰は妬まれて刺されねーようにしろよ」
「俺が朝陽さんを残して死ぬわけないじゃん!」
「死んでも生き返りそうだな」
「いや、死なないから。てか食べようよ、早く座って」
俺は朝陽さんを急かすと、ご飯をよそって晩飯を完成させた。
「やべ、お前の嫁って料理上手いな」
「でしょ。可愛いし最高」
「オレに譲れよ」
「いや無理だから」
「ちくしょー、ノロケかよ」
「あ、ほら朝陽さん。付いてる」
朝陽さんの口元に付いた米って、なんで特別美味いの?
うわ、俺変態かもしれねー。
「彰、今変態っぽいこと考えただろ」
「うん…」
「あのメモ見て鼻血出す時点でやべーから気にすんな」
「あれ、宝物にする」
「マジかよ」
「ラミネートして死ぬまで大事にする」
「…それはちょっと」
「あっ!朝陽さん引かないで!デザート食おうよ」
やべ、マジ引かれかけたよな今。
結構マジだったんだけど。
だって、朝陽さんの直筆ハートだし!
「うわ、なにこれー」
「“季節のフルーツたっぷりケーキ”だよ」
箱の中身を見た朝陽さんの目がキラキラしてる。
中身は旬のフルーツがふんだんに盛ってあるケーキ。
「これどーしたの、今日は記念日?」
「いや、朝陽さんが喜ぶと思って…」
朝陽さんのご機嫌を伺うためとか言えねーな。
「そっか、超うれしー」
俺は朝陽さんのしょうが焼きが死ぬほど嬉しかった。
死なないけど。
俺はテーブルの食器を片付けて、ケーキを皿に移した。
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