週刊『彰と朝陽』 ■しおりを挿む
急ぎ足─朝陽
もーすぐ五月。
身体も心も軽くなるよーな暖かさで、一番過ごしやすい季節だ。
でもオレは今、そんな爽やかな気候に似合わねー重い気分を持て余してる。
理由は毛虫が出るからとか、そんな単純なことじゃねー。
もっとややこしくて、結構めんどくせー理由だ。
「ありがとうございました」
「ん」
昼の混雑を潜り抜けて買い物を済ませたオレは、彰が待ついつもの芝生んとこへ足を向けた。
今日は朝から学校に来てるから、昼ご飯を一緒に食う約束なんだ。
おむすび二つとお茶、あとは雑誌の入った白い袋をぶら下げて、急ぎ足で遊歩道を抜ける。
「朝陽ー!」
実は、ちょっとした目的があるんだよな。
さっき買ったファッション小物の雑誌を彰に見せて、あいつが欲しがってる物のリサーチをするんだ。
「おーい、朝陽っ」
なんでかって言うと、もーすぐ彰の誕生日だから。
彰の奴、誕生日に欲しー物がないかを訊いたのに『去年の焼肉屋にカップルで行きたい』とか言いやがったんだ。
オレはちゃんとプレゼントを用意してやりてーのに!
とりあえず当日朝からデートで服とか買い物して、夜に焼肉屋ってことになったんだけど……。
「待ってよ朝陽!」
「?」
「久し振りだね」
「あーお前……な」
名前、なんだっけ。
目の前に立ち塞がったでっかい小型犬を見上げて、オレは首を傾げた。
何回か名前を聞いたよーな気がするんだけど、覚えてねー。
「朝陽、誕生日おめでとう」
「は?」
「こないだ誕生日だったでしょ。プレゼント受け取って」
「オレに、プレゼント……?」
「うん」
「サンキュ! わざわざわりーな」
「えへへ。あ、あとそれから、僕……朝陽のことす、好き……だから。付き合って、くださぃ」
「ん? 聞こえねー」
「僕と付き合って!」
「嫌だ」
「っう」
「オレ、急いでんだ。じゃーな」
プレゼントの紙袋を担いで、固まる小型犬を避けて歩きだす。
ちょっとタイムロスしたけど、なんかくれたから許してやるか。
オレは急ぎ足を小走りに変えて、彰の元へ向かった。
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