週刊『彰と朝陽』 ■しおりを挿む
事の真相─朝陽
「おい魔王、あんま彰のこと虐めんなよ!」
悔しそーに俯きながら部屋を出てく彰を見送ったオレは、調子に乗ってオレの腰を抱いてる魔王のほっぺを、思いっきりつねってやった。
「いへぇ!」
「雇い主だからっておとなしくしてたら、調子に乗りやがって! 借金チャラの話はお前が言い出したんだから、イビるネタにすんな!」
「ふ、ふいまへん!」
「ったく……。だいたい、魔王が『PTAのババアが嫌いだからバイトに来てくれ』っつったんだろーがッ」
「あ、朝陽! 大声で言ったら彰に聞こえるだろ!」
「うるせー黙れバカ。文句あんのか」
「ありません……」
「オレは夜ご飯奢ってくれたらそれでいーって言ったよな?」
「はい」
「それに対して、魔王は何て言った?」
「彰の借金を無しにしたいから雇われてくれって……」
「ん」
「でも、俺に逆らえない彰が珍しくてさ」
「わかるけど、虐めすぎるな。弄るぐらいにしとけ」
「そうだな……ごめん」
「わかればいー」
魔王は、理由と金額にもよるけど彰……十歳も離れた弟に金を貸すなんて、嫌だったらしー。
でも、そー言って小遣いとして渡したら彰が怒るから、とりあえず一旦借金ってことにしたそーだ。
つまり、オレは美しー兄弟愛のために利用されてやったんだ。
ま、彰の誕生日プレゼント資金ができるから、正直ありがてーんだけどな!
「じゃあ、気を取り直して記入の説明な」
「よし来い!」
「このプリントの山から一枚ずつ取って、ボールペンで上から順番に……」
「プリントにクラスと名前が書いてあるけど、確認すんのか?」
「一応、彰が呼ぶ順番に並べてある。でも俺が診る前に確認するよ」
「わかった。オレは上から順番にアルファベットだな」
「そうそう! 男子しか来ないから、気負うこともないだろ?」
「ん。てか今は、完璧に男女で分けんだな」
「最近いろいろ、めんどくせぇからなぁ」
女子を診るのは、小児科医で須磨クリニックの跡取りの嫁だ。
跡取りってのは一番上の兄貴な。
魔王はしがない皮膚科医だけど、簡単な診察だからって医者になった年からやってるらしー。
若い医者のが、ガキも身構えねーで済むからだ。
「そろそろ時間だな」
「オレ、彰に声掛けてくる!」
「話し込むなよー」
「おう」
ドアを開けると同時にチャイムが響く。
オレは隣の待機部屋にいる彰のところへ小走りで向かった。
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