週刊『彰と朝陽』 ■しおりを挿む
対戦ゲーム─彰
今日はホワイトデー。
特別なことはしないけど、家で二人きり、ラブラブな一日を過ごす予定だ。
というわけで、昨日買ってきたロールケーキを切り分けた俺は、リビングで奮闘中の朝陽さんを振り返った。
「朝陽さーん、大丈夫? 繋がった?」
「当たり前だ! オレを誰だと思ってやがる!」
「あ、ホントだ。さすが朝陽さんだね」
「敬えよ」
「うん。朝陽さん大好き」
「ん」
「じゃあ、遊ぶ前に休憩がてらケーキ食おーよ」
「っよし! 食いながら説明書見るぞ」
朝陽さんが繋いでたのは、テレビとゲーム機のケーブル。
そう。こないだの約束をまず一つ果たしたんだ。
ハードはわりとすんなり決まったんだけど、俺はRPGしかしたことないし朝陽さんはゲーム自体が初めてだから、ソフト選びで結構迷った。
結局二人で遊べる典型ソフトってので、レースゲームと格闘ゲームを買ってきたんだけど。
「どっちから遊ぶの?」
「レースだな。コントローラーに慣れねーといけねーし」
「格闘はコマンドが複雑そーだからね」
こたつの机にケーキの皿とマグカップを並べると、朝陽さんがロールケーキを食いながらレースゲームの説明書を読み始めた。
「ふんふん」
「操作わかりやすい?」
「まーな。とにかく、前に進むのは×ボタンだな!」
「ブレーキは?」
「そんなもんいらねーだろ」
「え、いるよ!」
「うるせー。男なら止まらずに前進し続けろ」
「その台詞はかっこいーけど、コーナリングの時に……」
「ったく! 彰はしかたねーな。ブレーキは□ボタンだっ」
「ありがと」
もー、朝陽さんはツンデレなんだから。
俺はケーキにかぶり付きながら、傍らに転がってるワイヤレスコントローラーを見遣った。
今ってすげぇよな、充電式のワイヤレスなんだ。
俺、高校卒業と同時にゲームもやめたから、全然知らなくてビックリした。
「あっ」
「どーしたの?」
「R3の上とか下でも、アクセルとブレーキがあるぞ」
「R3? なにそれ」
「このグリグリが、そーらしー」
「ややこしーね」
「ん。オレは×ボタンだけでいーな」
「俺も」
「じゃ、さっそくやるか! あとの操作は身体で覚えるぞ」
朝陽さんは張り切って説明書を閉じると、食べかけのケーキを口いっぱいに頬張ってテレビの電源を入れた。
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